プロフィール

イザク

Author:イザク
好きな物・好きな人(順不同)

昔のSF。宇宙とかロボットとかそういうSFっぽいもの。
本一般。映画一般。特撮ヒーロー。仏像。友情モノ。
西尾維新先生。舞城王太郎先生。荒木飛呂彦先生。奥泉光先生。円城塔先生。津原泰水先生。山岸涼子先生。松本大洋先生。三上骨丸先生。白鵬様。食パンちゃん。

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 東京二十三区の真ん中を通る中央線が東へ東へと伸びて総武線と名を変え、やがて千葉との県境に至る一歩手前に、JR小岩駅がある。
 駅の構内には、小岩が生んだ昭和の大横綱、栃錦の銅像が置かれ、小岩住民の恰好の待ち合わせスポットとなっている。
(なぜか栃錦像の手のひらとお尻に触りたがる人が多いらしく、その部分だけ磨かれたようにピカピカになっている)
 駅を北側に降りると、まず目に入る某大手スーパーを中心に、比較的高い建物が多く、蔵前橋通りを経て錦糸町、更には都心へと続く、都会の気配のようなものが多少は感じられる。
 反対に南口への階段を降りると、バスターミナルを兼ねた駅前広場から、ややレトロな雰囲気の三つの商店街の入り口が見える。
 右から順に、「フラワーロード」「昭和通り」「サンロード」という名前がついている。

 大規模店やスーパーに押され、シャッターを閉めたままの店舗が目につくのは時節柄仕方のないことではあるが、それでもこの三つの商店街は長年地元住民に愛され、そこそこ元気であった。
 商店街の店主たちが集まって「小岩南口商店街組合委員会」なるものを結成し、例えば春は桜、夏は七夕飾りなどの季節ごとの飾りつけ、出店や大道芸を呼んでの夏祭り、年末のおみくじ大会などなど、年間を通してなにかとイベントだか販促活動だか自分たちが楽しみたいだけなのかよく分からない活動が行われていた。

 さて。
 某月某日午前九時。

 私は今、「南商委(小岩南口商店街組合委員会の略称)」の、新しく出来た分室(というか、私の自宅を少々改造したもの)の一室に、三人の若者と向かい合って座っている。
 三人には今、南商委の新しいプロジェクトの概要を説明し終えたばかりである。
 南商委が更なる売上アップと、地元に愛されるイメージキャラ作りを目指して立ち上げた新しいプロジェクトとは、すなわち南小岩のご当地ヒーロー、「小岩戦隊・サンフラ和ー」の結成であった。私はその推進責任者、この三人はヒーローの募集に応じて集まってくれた、小岩出身の若者たちである。
 ちなみに「サンフラ和ー」とは、「サンロード」「フラワーロード」「昭和通り」の三つの名前を合わせたものであり、「和」だけが漢字なのが何とも座りが悪いのだが、ここをカタカナにしてしまうと昭和通りの名前が消えてしまうではないか、との昭和通り代表の強い主張により、苦肉の策としてようやく決定した名前である。ダサいとかショボいとか言わないように。

 三人には、簡単に自己紹介してもらっている。
 向かって右、茶髪に赤いスタジアムジャンパーが鈴木健太(ケンタ)、十八歳、アルバイト店員。ややチャラい系。
 真ん中が黒髪に青いパーカーの田中秀人(シュート)、十九歳。ニート。一見して、暗め。
 左にいるのが、黄色いロゴ入りのトレーナー、ややくせ毛でメガネの佐藤晴臣(ハルオミ、略してハル)、十九歳。自宅のパソコンでネットオークションやら何やらで稼いでいるという。見るからにオタク。
 何だかいろいろと心配な三人だが、贅沢は言っていられない。募集期間も短く(募集の張り紙を各商店街に配ったのが三日前)、いろいろ面倒な条件をつけて希望者を募ったのだ。必要最低数の、三人が集まっただけでもありがたいと思わなければ。

「では改めてご挨拶します。私は、『南商委小岩戦隊分室』室長の、松戸真樹子。マキコさん、でいいです。皆さんを、本日ただ今より、『小岩戦隊サンフラ和ー』の正式隊員として任命します」
「え、今、ちょっと話しただけなのにもう決まっちゃうの。スゲー・・・」
 ケンタが驚いて声をあげるのにかぶせるように、ハルが、
「あの、・・・松戸さん、てことはマキコさんは松戸博士の娘・・・、いや、おじょうさん、ってことですか?」
 と、いきなり身を乗り出して聞いてきた。この質問には慣れている。
「そう、松戸康太郎は私の父です。三年前の事故の後、松戸ラボは表向きは閉鎖になったけど当時父が手掛けていた研究は続いていて、ラボの代表は今は私です」
「うわ、僕、松戸博士のことはすごい尊敬してて、・・・地元に、あんなすごい科学者がいるなんて・・・」
「学会ではトンデモ科学者と言われて、無視され続けましたけどね」
「でも僕、松戸博士は天才だったと思うんですよ。三年前、事故で亡くなったとき、初めてネットで博士の発明品とかが話題になって、興味を持って調べたら、すぐ近くに研究所があったって知って、・・・。事故は本当に残念でした。もっと早く知っていればお会いしたかったです。実は今回の募集も、この分室がラボの跡地だったっていうのと、あと、戦隊っていったらやっぱりスーツがあるんだろうな、って思って、それで応募してみたんですけど・・・」
 このハルという子は本当に父のことを尊敬してくれているらしい。あの事を、話してしまおうか? いや、まだだ。物事には順序というものがある。私はにっこり笑って言った。
「今回の小岩戦隊の話も、父の研究がなければ無かったと思いますよ」
 というか、南商委に話を持ち込んで無理やり成立させたのは私だ。途中から、組合員のみなさん、かなり乗り気になってくれてはいたが。
 ハルは更に身を乗り出した。
「じ、じゃあ、本当にあるんですね、松戸博士が開発した戦隊スーツ!」
「もちろんです。今、ここに用意してあります。今から、皆さんに着ていただきます」
 私はそう言って、テーブルの下からスーツケースを取出し、中身を三人に見せた。
 中には、光沢の美しい赤・青・黄色の三着の戦隊スーツ。
「うわっ!」
「スゲー!」
 ハルとケンタは子供っぽい歓声をあげた。
 先ほどからほとんど無表情のシュートでさえ、目を輝かせた。
 私は大いなる満足を感じながら、スーツを取り出して広げ、ケースの下の方から大型の腕時計のようなものを取り出した。
「さて、実はこのスーツはディスプレイ用、つまり見本です。本体は、このチェンジャーに収納されているの。これを皆さんにお渡しします。ああ、その前に・・・」
 私は改めて三人を見わたした。ちょうど今日は三人が、赤・青・黄色の服を着ている。
「あなたたちのスーツの色を今決めなければいけないのだけど・・・今着ている服と同じでいい? ケンタくんがレッド、シュートくんがブルー、ハルくんがイエローって事で」
 さっそくケンタが、
「え、オレ、レッド? やった! スゲー!」
 と、はしゃぐ。この子はスゲーしか言えないのか?
「おれはいいですよ、ブルー好きだし」
 シュートが静かに同意。確かに、この子は間違っても赤や黄色は着なさそうである。
「僕もオッケーです。レッドとかブルーってキャラじゃないし、カレー好きだし」
 それは昭和の設定だろ! ハルが戦隊ものを好きなのは確からしい。
「では、それで決定。じゃあこのチェンジャーを、それぞれ右の手首に巻いてください」
 私は三人に三色のチェンジャーを手渡し、装着させた。
「横のボタンを押してから、それぞれ自分の声で、チェンジャーに向かって自分の名前を言ってください。音声登録されて、以後、本人以外には使用できなくなります」
 三人が登録を終えるのを私はしばらく待った。
「さあ、いよいよ変身です。真ん中のボタンを押して『チェンジ!』と叫んでください」
 シュートとハルが、叫ぶのが気恥ずかしいのか、え、それだけですか、などとつぶやいている間にケンタが、
「チェンジ!」
 と、ひときわ大きな声で叫んだ。この子は頭は軽そうだが、その分決断と行動は早い。確かに、レッドに向いているかも知れない。
 ケンタの全身を光る粒子の渦が一瞬包んだと思うと、次の瞬間には、つま先から頭のてっぺんまで赤一色の、戦隊レッドが立っていた。私はひそかに鑑賞する。ふむふむ、なかなかいい身体。胸板と太ももがもう少し充実すれば、文句なし、かな。
 瞬時の変身に、三人が度胆を抜かれているのを、またも大いなる満足とともに眺めながら、私は話しだした。
「父の発明は現時点での科学を超えているから、詳しい説明は省きますが、チェンンジャーは皆さんが今着ている服の分子構造を変化させて、戦隊スーツにチェンジするの。足りない分子は周囲の空間から少しずつ調達するから、水着姿でも変身可能。ただし、なぜかシルクの繊維の分子だけは、うまくチェンジできないの。変身が中途半端だったり、色や形が変わってしまったりするので、みなさん普段から、絹のシャツは着ないでくださいね」
 絹のシャツとは一生縁のなさそうな三人だったが、一応、念を押しておいた。
 鏡を見ながら(この分室はトレーニング用のジムを兼ねているので、壁は一面がガラス張りになっている)スゲー、まじスゲー、と騒ぐケンタの横で、残る二人もチェンジを完了した。ブルーは細すぎ、イエローはやや贅肉が多めか? だが、数週間のうちに二人とも、締まったいい身体になるはずだ。
「生地は薄手ですが、もちろん耐熱・耐衝撃性は抜群です。更に、着用者の筋力アップ機能も兼ね備えています。つまり今なら、ビルの屋上から飛び降りても大丈夫。反射神経や機敏性もアップしていますから、『マトリックス』みいたいな動きも可能ですよ」
 さっそくケンタが、勢いをつけて壁を駆け上がり、そのまま天井まで走りこんでしまって、クルリと一回転して床に着地した。
「うわっホントだ今の見た? オレ、スゲくない?」
 凄いのはあなたじゃなくて父の作ったスーツよケンタくん。
 他の二人も吊るしてあるサンドバッグを蹴ったり、コーナーを利用して三角飛びを試みたり、と、それぞれにスーツの性能を試し始めた、というか、楽しみ始めた。特撮でしか見られなかったような動きが、自分の身体で出来るのだ。これが楽しくないわけがない。
 時間があまりなかったが、私はもう少しこの子たちを遊ばせてやることにした。と、シュートが一人で私のそばへ寄ってきた。
「・・・納得できませんよマキコさん。たかが商店街の客寄せに、なんでこんな高性能のスーツが使われるんですか? どこから予算が出てるんですか。あの募集要項から変だなとは思ったんだ。『最低一年間、自宅を離れ隊員同士の共同生活が可能な者』って、どういう意味なんですか。ちゃんとした説明がないなら、おれは降りますよ」
 やはり、来たか。
 青い服を着ているだけあっって(戦隊においては、基本的に青はクールな知性の証し)、第一印象からこの子が一番頭が切れそうだとは思っていたのだ。というか、出てきて当然の質問だった。
「分かりました。ちゃんと説明はします。でもごめんなさい、今は時間がないの。事情は後で話すから、もう少しだけ私を信用してください」
 それだけ言うと私は、両手をパンパンと叩いて大きな声をあげた。
「皆さん! さあ時間です変身を解いてください。チェンジャーに向かって『終了』と言うだけで元に戻ります」
 シュート以外の二人は、変身中の興奮が冷めやらぬのか、素顔に戻っても顔を紅潮させていた。
 私も、あえて明るい声を出した。何も問題はない、何も隠し事などしていない、そんなふうに聞こえて欲しい、という願いのこもった、明るい声を。
「実はこれからすぐ、皆さんの小岩戦隊としての初仕事があります。『サンフラ和ー』のお披露目のステージで、場所は『かるがも広場』。ちょっとした挨拶と、撮影会の予定です。TV局も取材に来ますからね、どどーんと小岩をアピールして行きましょう!」

 TV局は別件で小岩に取材に来るのだが、南商委がそれを知り、ついでに取材してもらえるようにと、急いで小岩戦隊のデビューの日にちを早めたのだ。私はそれを知って怒った。隊員の募集も、事前の説明や訓練も、本当はもっと時間をかけてじっくりやりたかったのだ。だが、一度決定したことは動かせなかった。あとは、今日、何事も起こらないこと、もし何事かが起こっても、父のスーツと、今日集まってくれた三人の若者がそれを乗り切ってくれること、を祈るしかなかった。

『かるがも広場』は分室から、歩いて数分の距離にある公園である。到着すると、広場の真ん中に白いステージが作られ、周りには紅白の幕が張られ、ズラリと並べられた椅子には江戸川区長、区議会議員はじめお偉いさん方が顔を揃え、南商委の面々、例のTV局とその他広報関係の人々、買い物途中の主婦、ついでに近くの保育園から見物に来た子供たちと保母さんたち、等々が詰めかけていて、もはや立錐の余地なし、である。
「ちよっとこれ、オレら何にも練習とかしてないの、ヤバくね?」
「せめて決めポーズだけでもないと、恰好がつきませんよ、これ」
 ケンタとハルの不安ももっともだ。私はまた、あえて明るい笑顔を浮かべ、自分の手首を皆に見せた。私も、自分専用のチェンジャーを装着しているのだ。スーツ変身の機能はないが、通信は可能だ。
「大丈夫。チェンジャーを、リモートコントロールでオートモードに切り替えられるから。スーツが自動的にポーズを取ってくれるから、みんなはただ中で力を抜いていればいいの。もし、インタビューを求められても、何も言わなくてもオーケーよ。ちゃんとヒーローの言いそうな言葉を、声優さんの声でインプットしてあるからそれもオートで対応できるし」
 ほんとに、博士の開発したスーツの性能は凄いですね、と、ハルがまた興奮するのを横目で見ながら、シュートが眉を曇らせた。
「オートモード、って何だよ。おれたちに何をやらせるつもりなんだ。本当に、あんたを信用していいのか?」
 返す言葉がなかった。私は一体、この子たちに何をさせようとしているのだろう・・・。

 だが、幸いなことに、悩んでいる時間すらなかった。
「ああ、マキちゃん、もう舞台出て。TVの取材が時間押しちゃってて、南商委の挨拶の前に戦隊撮りたいっていうから」
 組合員の一人が声をかけてきた。むしろ、救われた思いだった。この先、なにが起ころうと起こるまいと、始まってしまえば、あとはもう出たとこ勝負だ。
 私は慌てて、三人をステージ裏に連れていき、その場で変身させた。
「心配ないから。私の言う通りに動いてくれればいいの。大丈夫、みんな、十分カッコイイよ」
 その言葉に嘘はなかった。父のスーツは、着る人の体形や姿勢も矯正する。外見的には、三人とも立派なヒーローだ。
 あとは、私が、うまくやればいいのだ。
 
「皆さーん! お待ちかね、ニューヒーローの登場でーす!」
 私はマイクを握り、ステージに登った。
「小岩を守る三人の戦士、『小岩戦隊・サンフラ和ー』! 小岩を襲う悪の手に、正義と勇気と友情で立ち向かう、『小岩戦隊・サンフラ和ー』! さあ皆さん、盛大な拍手を!」
 私は自分のチェンジャーに向かって、さあ、ステージに上がって、と小声で言った。それに応じて、三人がのそのそと、何やら照れたように、下を向いたり、首筋を手で擦ったりしながら姿を現した。
 うーん、ダメだわこれじゃ。ケンタあたりは、もっとノリ良くやってくれるかと思っていたが、やはり素人だ。私は容赦なく、オートモードに切り替えることにした。自分のチェンジャーに向かってささやく。
「オートモード、その一。ヒーローの登場」
 途端に三人の態度が変わった。胸を張り、堂々とかつさわやかに、客席に手など振りながらステージへ駆け上がってきた。
「その二。ヒーローの決めポーズ」
 三人はステージ上に等間隔でバランス良く並んだ。ケンタ、つまりレッドが一歩前に出た。
「南小岩は花の町。情熱の赤い薔薇、フラワーレッド!」 
 声優の声でそう言うと、あらかじめインプットされていた決めポーズを取った。次に、ブルーが前に出る。
「南小岩は人情の町。大いなる江戸川の流れ、昭和ブルー!」
 ブルーのポーズは、水の流れを意識したものだ。実はこれらのポーズ、私が作ってインプットしたのである。我ながら、なかなかの出来。と思うが?
 さて、最後はイエローの番だ。
「南小岩は幸せの町。きらめく子供たちの笑顔、サンイエロー!」
 そう言ってポーズを取ったあと、三人は声を合わせて、
「小岩戦隊・サンフラ和ー!」
 と叫んで、見得を切った。
 私が言うのも何だが、ご当地ヒーローの決めポーズにしては完成度が高い。正直、こんなに恰好よく決まるとは思っていなかった。私は思わず拍手をした。一斉にフラッシュがたかれ、子供たちは前もって打ち合わせでもしていたかのように、覚えたばかりの「さんふらわー」という名前を口ぐちに叫んだ。その様子をTVカメラが撮っていく。
 私の耳には、チェンジャーを通してケンタやハルの、
「このポーズ、いつまでやってんのかな。カッコいいけど、キツくね?」
「僕、中腰だからもっとキツいですよう」
 などという会話が聞こえる。
 そろそろオートモードを解除してやろうか、と思った、その瞬間。

「グワーハッハッハ!」
 この世のものとも思われない邪悪な笑い声が響き、広場の地面がそこかしこでひび割れた。そしてその割れ目から、青黒く光るウロコに全身をおおわれた、ワニのような巨大な口の怪人が現れた。同時に、そこらじゅうの割れ目から、トカゲに似た頭の怪人がわらわらと這い出てきて甲高い声でキイ、キイと叫びながら広場を埋め尽くした。
「待ってたワニ。サンフラ和ー、お前たちは一度も活躍することなくここで終わる運命だワニ」
 怪人はそう言うと、再び邪悪な声でグワーハッハッハ、と笑った。

 ああ、やはり来てしまった。
 ケンタ、シュート、ハル。本当にごめんなさい。事情は後で説明します。
 子供たちは悲鳴をあげ、いっせいに保母さんにしがみついた。観客席に座っている人たちは落ち着いていて、むしろ笑い顔の人さえいるようだが、おそらくこの怪人登場を演出だと思っているのだ。良くできてるなあ、という声さえ聞こえる。
 私はまた、マイクを握った。
「皆さん! これは、ショーではありません。早く、逃げてください! 危険です、早く、逃げて! オートモード、フリー! 戦闘、開始!」
 まだ、舞台の上でポーズを決めていた三人は、はじかれたように飛び上がった。
「ケンタ、シュート、ハル! いい、これは本番、現実なの! 演出でも、練習でもないの! そのトカゲ頭もワニ頭も、中に人が入ってるんじゃないの。着ぐるみじゃないの、本物なの。本当に、そこの子供たちに危害を加えようとしているの。子供たちを守って! 戦う意志さえ、あればいいの! スーツがあなたたちの意思を読み取って、最も効率よく、攻撃と防御の動きをするの。今ここで、ヒーローになって! この町を、悪の手から、守ってちょうだい!」
 ケンタがマスクの中で言った、聞いてないッスよおー、という言葉は外に漏れることなく、チェンジャーを通して私にだけ聞こえてきた。
「戦わなければ、あなたたち自身が危険なの! 子供のころ、ヒーローごっこで遊んだこと、あるでしょう? それを思い出して。あとは、スーツが動いてくれる!」
 私が叫び続けるうちに、最初はぎこちなかった三人の動きが、徐々に切れ味を増してきた。スーツと身体とがシンクロしてきたこともあるだろうが、おそらく、トカゲたちと戦っているうちに、私に言われなくてもこれが現実であること、自分たちがこの怪人どもを倒さなければ、逆に怪人たちにやられるだろう、ということが分かったのだ。

 レッドは生き生きと戦っていた。高いジャンプに鋭いキック、トカゲ怪人の尻尾を掴んで身体ごと振り回し、周囲の怪人をなぎ倒すといった荒業も。
 ブルーは周囲への目配りを忘れなかった。戦いながらも、逃げ惑う人たちを誘導し、逃げ遅れた園児や保母さんをかばって安全な場所に連れて行った。
 イエローは頭を使った戦い方をした。わざと座席の並ぶ中にトカゲたちを追い込んで、身動きしにくくさせたうえ、座席の下に敷いてあったシートをつかんで椅子ごとひっくり返したり、周囲に張られた紅白幕をはがしてトカゲたちをぐるぐる巻きにして公園の遊具に縛り付けたりした。
 トカゲ頭たちは、キイ、キイと鳴きながら退散しはじめた。

 と、それまで後ろの方で控えていたワニ頭が、のっそりと前に出てきた。
 三人はワニと向き合った。
「残ったのはお前だけのようだな、ワニ頭」
 レッドが声優の声で言った。オートモードのままなので、この場面でいかにもヒーローが言いそうなセリフが選択されるのだ。でも私の耳は、チェンジャーを通じて、ケンタがマスクの中で、
「残ったのはお前だけだな、ワニ」
 とつぶやくのを捉えていた。ほんのちょっとの時間に、ケンタはヒーローらしくなっていた。
「なかなかやるな、サンフラ和ー。だがはしゃぐのもここまでワニ。今日がお前らの命日というのは、決定事項だワニ」
 ワニはそう言うと、胴体に着けていた甲冑のようなものを開いた。内側には何があるのだろう。みんな、注意して、と叫ぼうとした時、轟音とともにミサイルが発射され、煙の尾を引いて三人に命中するのが見えた。私は悲鳴を上げた。
「グワーハッハ! なにが小岩戦隊ワニ、おれ様の手にかかればこんなもんだワニ」
 ワニは高笑いして、とどめを刺すべく三人の方に向き直った。爆煙が晴れてみると、そこには・・・
 倒れているはずの、三人の姿がなかった。

「ワニ? 往生際の悪い奴らだワニ」
 ワニはそう言うと、用心しながら植え込みのあたりを探し始めた。私はその隙に、チェンジャーに向かって囁いた。
「ケンタ! シュート! ハル! みんな、無事?」
 すぐに、ケンタの声が返ってきた。
「大丈夫ッスよマキコさん、ちょっとくらっちまったけど、スーツのおかげでみんな無事。今は樹の上に隠れてる」
「あのミサイルは強力だ。肉弾戦では勝ち目がない」
 こんな場面でも冷静な、シュートの声。
「マキコさん、僕たちにも、何か武器っていうか飛び道具、ないんですか?」
 ハルの困った声。

「・・・あるわよ」
 私は小さい声で言った。
「もともとそのスーツに、標準装備されているの。使用者に、使う意思があれば具現化するのよ。ただ、使う意思というのはつまりあなたがたが、相手を殺す意思を持つ、ということなの・・・」
 三人は押し黙った。例え相手が極悪人のバケモノであっても、自分の手でそれを殺す、という決断が、普通に暮らしてきた若者たちに、瞬時に出来るわけはなかった。

「・・・使い方だけ教えてください、マキコさん。おれたち、出来るだけそれを使わずに戦ってみます。どうしても、相手を殺さなくてはいけないと思ったら、その時は覚悟を決めて使います」
 シュートが、相変わらずの静かな声で言った。私は涙が出そうだった。騙すようにしてこんなことに巻き込んだ子たちに、私は今、頼り切っていた。

「チェンジャーに向かって、ガンモード、と言うだけでいいの。チェンジャーが変形して、レーザーガンになる。相手が強力なガードをしていない限り、十分な殺傷能力があるの。基本的には、水鉄砲と同じで、対象に向かってただトリガーを引くだけ。狙いは多少ズレていても、スーツがあなた方の意思を読み取って修正してくれるから、百発百中」
「オーケー、簡単で嬉しいッスよマキコさん」
「おっと・・・見つかっちゃったみたい・・・。じゃマキコさん、後でまた」
 ハルの言葉と、ワニが大声を出すのとほとんど同時だった。
「そんな所に隠れていたかワニ。今度こそ、年貢の納め時ワニ」

 言うが早いが、胸のミサイルが何発も樹に打ち込まれた。けれど私の目には、いち早く三色の影が樹からジャンプして別の樹に飛び移るのが見えた。ワニは、今度こそ、仕留めたワニか、などと言いながら、煙につつまれている樹を見上げている。
 その背中に、別々の樹の中から、次々に声がかかった。
「おいワニ、二度も同じ手でやられるかよ」
「甘く見ないで欲しいもんだな」
「ここからは、僕たちのターンだからね」
「な、なにっ? いつの間に・・・?」
 うろたえるワニの周りを取り囲むように、三人が樹から飛び降りた。それぞれ、折った樹の枝を手にしている。ケンタがゆっくり歩いてワニに近づいた。
 今になって気づいたが、三人とも、自分たちの声でしゃべっていた。いつの間にかのスーツのオートモードの機能が三人を、一人前のヒーローとして認めて、出来合いのセリフをかぶせるのを止めていたのだ。

「お前のその攻撃は、正面に立たなきゃ無効じゃねーか。よくそんなんで、オレら倒そうとか思ったよなー」
 そう言いながら、すばやくワニの横に回り込み、手に持った棒でその後頭部を一撃した。
「がっ! こざかしいマネを、・・・」
 ワニがよろめいた所に、シュートとハルが、両側から棒を振りかざしてワニに襲い掛かった。
「調子に乗るなワニ」
 ワニは両手を広げて左右につき出した。そこから、またもミサイル弾がシュートとハルを直撃した。
「ぐあっ・・・!」
「うああーっ!」
 二人の身体は左右に吹っ飛び、今度こそ、しばらく立てなかった。
「てめーこそ! 調子こくんじゃねえ!」
 ケンタが真正面から突っ込んだ。ワニが狙いをつけるより早く、空中高く飛び上がり、そこからワニの顔面を強打した。ワニはがくっっと、膝を折った。その隙に、ケンタはシュートとハルを助け起こした。
「おい! 大丈夫か?」
「くそっ、近すぎて避けきれなかった・・・あのミサイル、両手からも出せるとなると、やっかいだな・・・」
「来るよ! みんな、避けて!」
 三人はいっせいにに飛びすさった。一瞬ののち、三人がいた場所にミサイルが着弾し、爆炎をまき散らした。
 私は思わず叫んだ。
「みんな! ワニも、背中にまでは手が回らないはず。バラバラに動いて、背後に回り込んで! それと、早くガンモードを起動しなさい!」
 私の大声に、ワニがこちらを振り向いた。しまった、と思ったがもう遅かった。
「なるほど。お前がリーダーだったワニね」
 言うが早いが、ワニはその短い足からは想像できない速さで走ってきて青黒いウロコの生えた手で私を捕まえ、手のひらのミサイル発射口を私の顔に向けた。
「グワーハッハッハ! 見るがいいサンフラ和ーども! この女がどうなってもいいワニか?」

「うわあ・・・きったねえ・・・。卑怯な手、ってやつだよこれ」
「ベタだな」
「僕、なんか真剣に怒りが湧いてきました。今なら、ガンモード起動できる気がします」
「オレも」
「おれもだ・・・やってみよう」
 三人はこちらを注視しながら、チェンジャーに向かってガンモード、と言った。次の瞬間には、三人の手にはレーザーガンが握られていた。三人は黙ったまま、銃口を上げた。
「おれを撃つつもりワニか? そんな事をしたら、この女も道連れワニ」
 ワニは私を羽交い絞めにしたままそう言って笑った。
 三人の手が震えるのが分かった。

 駄目! 
 迷いが隙を生み、ワニはそこに付け込もうとしているのに!

 でも私は、私にかまわず撃ちなさい、などというつもりはなかった。まだまだ命は惜しいし、ここで死んだら三人に対して責任が果たせない。
「ガンモード!」
 私は叫んだ。右の手に、チェンジャーが変形したレーザーガンがすべり込む感触と同時に、羽交い絞めにされた腕が許すぎりぎりの角度で、ワニの足を狙って撃った。
「グワッ!」
 ワニが悲鳴をあげ、手を緩めた隙にもう一発、今度は太腿に命中。
 ワニは思わず手を放した。私は飛びすさって地面に倒れ、そのまま転がって距離をとった。
「みんな、やっちゃって!」
 私の声が皆に届くのと、三本のレーザービームがワニ怪人の、開いたままの甲冑の奥を直撃するのとほとんど同時だった。
 爆音とともに、ワニの身体は内部から弾けた。
「お、おのれ、サンフラ和ーどもおぉーっ!」
 いかにも悪役らしい断末魔の声とともにワニは爆発し、黒煙が薄れると、後には何も残らなかった。



 戦いが済めば懺悔の時間、である。
 分室に戻った私は、三人を前に深々と頭を下げた。
「本当にごめんなさい! 言いたいことは山ほどあるでしょうけど、その前に、どういうことなのか説明させてください」

  * * *

 父の数々の研究の中でも最大のものは、未来の予見です。
 未来予知、ではないの。未来予測でもない。
 時間は常に過去から未来へと流れている。だから、私たちは過去のできごとを知っている。
 その時間を、未来から過去に流れるものとして観測できたなら、未来のできごとを知ることができる。
 荒唐無稽に聞こえるでしょうけど、時間が第四の次元であることを考えれば、もっと高度の次元からの観測が可能であれば、少なくとも理論的には、未来予見も可能というわけ。
 父の天才は、それを可能にしてしまった。そう、父は未来の歴史を知ってしまったの。

 ここからが大事なことだから、良く聞いて。
 西暦201X年、トーキョーのコイワ地区に小岩戦隊と名乗るヒーローが現れる。彼らは勇敢に悪と戦い、正義の心を持って小岩の、そして世界の平和を守り抜く。
 その姿に感動した小岩の子供たちは、自分も小岩戦隊のように世界の平和のために尽くしたい、との大志をいだくようになり、やがて小岩地区からは世界的な視野をもったすぐれた政治家や学者が輩出するようになる。
 彼らは未来史の中では小岩派と呼ばれ、互いに協力して地球上の各地の紛争や環境・食糧問題などを少しずつ解決してゆくの。
 二十一世紀の後半には、人類史上初めての、平和で豊かで平等な世界が訪れる。数世紀にわたって続くこの人類の黄金時代を、未来の史家は『パックス・コイワーナ』、小岩の平和、と呼ぶようになる。

 残念なことに、いつの時代にも平和を憎み、悪の野望を持った者たちがいるの。
 彼らはダークグリードと呼ばれ、地上を再び、争いと憎しみに満ちた世界へと変えようともくろんでいた。
 彼らは二十一世紀初頭の、小岩戦隊の活躍がすべてのきっかけだったと考えた。小岩戦隊を倒す事ができれば、小岩の平和も訪れず、地上を自分たちの意のままに出来ると。
 だから未来の社会において、タイムマシンがついに完成されると、さっそく201X年を目指して時間を超えてやってきたの。そう、ここ、小岩に。
 ちょっと待って、言いたいことは分かります。小岩戦隊がいなければダークグリードが襲ってくることはないし、ダークグリードが襲ってこなければ小岩戦隊の活躍もない。なにが原因でなにが結果なのか、って事よね。
 これはタイムマシンが実用化されると必ず生じる問題、いわゆるタイム・パラドックスです。そして、タイムマシンの活用によってもう一つ、表面化する問題、それが、パラレルワールドの存在。
 未来から過去に干渉することによって、ありうべき未来が無数に枝分かれしていく現象のこと。
 つまりは、ダークグリードが襲来する世界とそうでない世界とがあるというわけ。
 父はこのことを知って、あの戦隊スーツの開発を手掛けたの。もしもこの世界が悪の組織に襲われることになっても、それに立ち向かうことのできる戦隊と、それを支えるスーツを作ること、それを自分の使命と考えたのよ。 
 あのスーツがやたらと高性能なのは、父しか知りえない未来の技術が応用されているからなの。

 この、私たちが今いる世界が、ダークグリードによって襲われる世界なのかそうでないのかは、ついさっきまで分からなかった。観測されて初めて、決定される事象だから。今日あなたたちが、武器を持って戦うことなどなく、ただ南小岩のご当地ヒーローとして華やかにデビューを飾る、という可能性もあったの。私は、そうであることを願っていた。でも、現実は、違った。

 もっと時間があれば、もちろん前もってすべてを説明すべきだった。でも、今日のステージは急に決まったことだったの。小岩戦隊が活動する以上、ダークグリードが現れる確率はゼロとは言えない。私は、急いで隊員を募集した。起こりうる最悪の事態に備える必要があったの。
 未来史では、ダークグリードの最初の襲撃は201X年の終わりのはずだった。隊員を募集してちゃんと説明して納得してもらって、ご当地ヒーローとしての活動を重ねながら、訓練を積んでゆく予定だったの。馬鹿だったわ。パラレルワールドが無数に枝分かれしている以上、その程度の変化があることは予測すべきだった。

 私の話は、これで終わり。
 あなたたちを騙したのは、私の責任。
 やめたいと言っても責める気などまったくないし、むしろ当然だと思う。
 今ならまだ、スーツの登録もリセットできるから、チェンジャーを返してください。少ないけど、今日の分の日当を払います。あと、危険手当も。
 
  * * *

 長い話が終わると、長い沈黙がおりた。

 気まずい空気を破ったのは、やはりケンタだった。
「えーと、オレ、今の話良くわかんなかったんだけど、・・・結局さっきのワニは何だったんッスか?」
 今、その質問ですか・・・!? 
 激しい徒労感が私を襲った。必死に自分を立て直しつつ、私は言った。
「・・・あのね、だからね、ダークグリードっていう組織が歴史を変えようと、・・・」
「さっきのワニは小岩を滅ぼすために未来から来た悪者だ」
 シュートが短く言った。
「特に目をつけられているのが、おれたち小岩戦隊だ。あと、これから成長する、小さな子供たちも狙われやすいと思った方がいい」
 ありがとうシュート、あなたが賢い子で良かった。
「ああなるほど、そこでタイムマシンがどうとかって話なんだ・・・。で、ワニ、また来るんッスか?」
「ダークグリードの襲撃はほぼ一年間続くの。さっきのワニは、おそらくほんの小手調べ、というか様子見でしょうね。ダークグリードは爬虫類の遺伝子を組み込んでいるから、ワニでなくても、またトカゲっぽいのが来るでしょう。ただ、時間を超えるエネルギーを溜めるのに一週間程度かかるはから、次の襲撃まではまだしばらく日にちがあるはず」
「えーとそうするとオレたちは、ほぼ週一で一年間、さっきみたいなヤツと戦う、ってわけ」
「ケンタ、だから今言ったでしょう。あなたたちを募集するとき、私は、実際に危険な戦いをしてもらうとは一言もいってないのよ。下手をすれば命にかかわることなの。ここに残って続けろとは、誰も言ってないのよ」
「でもさあ・・・あの、募集要項? あれに書いてあったじゃん、『小岩の平和の為に戦う覚悟のある諸君を待っているッ!』って。だからオレ、今になってマキコさんが急に弱気になってんの、よく分かんないッスけど・・・」
 ああまた徒労感が。私を救ってくれたのは、またしてもシュート。 
「普通はあれをちょっとしたシャレと思うんだよ」
「シャレ?」
「ギャグとか」
「ギャグ? マキコさん、小岩戦隊ってギャグなわけ?」
「違うわよ、ただ、・・・」
「マキコさん、オレたちに戦って欲しいと思ってないんですか?」
「・・・戦って欲しいと思っているわ、今でも。どっちみち、誰かが小岩戦隊としてこの町を守らなければならないのよ。でも、騙して連れてきたあなたたちのこれ以上無理はさせられない、って言ってるの」
「だからオレ騙されてないって、戦う覚悟あるから来たんだって」
「マキコさん、こいつはもういいよ。こいつはこのまま、戦隊やりたいって言ってるんだよ」
「シュート・・・」
「おれは正直、前もって言ってくれなかったことを怒っているよ。でも、あんたの話、信じろっていう方が無理だよな。おれも、あのワニを見る前だったら多分まったく信じられなかっただろう。だから、あんたが最初に説明しなかったこと、責めるつもりはない。そのことはもう、気にしないでいい」
「気をつかってくれているのね。ありがとう」
「で、おれも、戦隊続けることにする。さっきのワニの騒ぎのせいで、これから隊員を募集するのは難しいと思う。それに、今の話を聞いた後で降りるのは、何ていうか、・・・男じゃない」
 シュートは最後で少し照れた。
「どうせ騙すんなら、最後まで強気でいて欲しかったよな。そしたらおれは、騙された、騙された、って文句を言って一年間楽しめた、って気がするよ」 
 そう言ってちょっと笑った。私は、この子の笑顔を初めて見た。
「シュートさんがそんなこと言うから、なんだかやたらハードルが上がった感じだなあ・・・」
 同じく笑いながら、ハルが会話に入った。
「僕は覚悟を持つとか男になるとかそんな、強い心持ってないんですよ。ただの特撮オタクで、スーツ着たいっていうただそれだけで応募してきたんですから・・・。僕、小さいころ体が弱かったし、運動神経もないから子供の時からみんなと遊んでてもすぐ仲間はずれにされちゃって。体を動かすのがほんとに下手で、それで、戦隊ヒーローの華麗なアクションにあこがれて特撮オタクになったんですよ。でもね、松戸博士のスーツは素晴らしいです。僕、さっきスーツ着ていたとき、生まれて初めて、自分の身体を自分のイメージ通りに動かすことができました。それがすごい気持ち良くて。よく、スポーツ選手が絶好調のとき、『ボールが止まって見える』っていうけど、そんな感じ。ちっちゃい頃からの夢がかなったような気持ちなんです」
 ハルは目を伏せた。
「だから僕の場合、僕からこのスーツを取り上げないでください、っていうのが本音なんです。あこがれのスーツ姿で、週一で正真正銘の悪者相手に思い切りアクションできるなんて、もう最高ですよ。覚悟がどうこう言うより、スーツのまま死ねたらむしろ本望、みたいな・・・。マキコさん、こんな動機で良かったら、どうか僕をこのまま戦隊員として使ってください」
 そう言ってハルは私に、頭を下げた。

「・・・みんな、おかしいでしょ。遊びじゃないのよ? 怪我したり、下手したら死んじゃうかも知れないでしょ?」
「だから、それなりの覚悟だってさっきから言ってんじゃん。オバサン、しつけーよ」
「三人とも、続けると言ったんだ。覚悟がないのは、あんたの方じゃないのか。ここまできて、責任は取りたくないとでも言うつもりなのか。おれたちを、危険にさらす覚悟を持てよ」
「そうですよ。僕たちのボスとして、強い意志を持ってくださいよ。僕たちはマキコさんを信用して、僕たちを好きなように使ってくれ、って言ってるんですよ?」
 
 そうだ。
 この子たちに言われるまで、自分では気が付かなかった。
 戦いを、一番恐れていたのは私だ。覚悟がなかったのも私なら、勇気がなかったのも私だ。
 私は私の意思で、彼らを率いなければならない。
 私は私の力で、できるかぎり彼らを守らなければならない。
 彼らに対して責任を負うのは、この私、そう私なのだ。

 私は顔を上げた。
 威勢のいい大声を出そうと思ったが、口から出てきた言葉は最初のうち少しかすれて、震えていた。
「ありがとう。みんなのおかげで私もやっと、心が決まった気がする。明日からは血も涙もないボスとして、ビシビシみんなを鍛えていくことにするわ」
 お決まりの、えー、そりゃないよー、というリアクションも心地良い。彼らなりの、私への気遣いだ、と分かる。
「とは言うものの、今日一日は戦隊結成のお祝いをしましょう。焼肉おごっっちゃうから! でも、その前に、もう一つ・・・」
 そう言って私は振り向いた。
「パパ! 聞いた? 小岩戦隊、ぶじ結成よ!」
「パパぁ!?」
 三人が異口同音に口にしたとき、暗かった壁面のモニター画面にメガネをかけた白髪の男、つまりパパの顔が映った。
「良かったのう。これで、一安心じゃ」
「ま、松戸博士・・・!?」
 ハルが驚きの声を上げる。
「本当、いい子が集まってくれて、良かった。これもパパのスーツのおかげよ」
「オバサン、その、・・・パパ、っていうの、気持ち悪いからやめて欲しいッスけど・・・」
「・・・っていうか、何だよこれ。あんたの父親はコンピュータなのか」
「そんなわけないでしょう! パパは天才だから、自分のデータをすべてコンピュータ上にトレースしてたの! 感情、思考、すべてをね。三年前の事故の時も、データの上書き中だったのよ。まあ、そのせいで台所でガスつけてたのを忘れちゃって、爆発事故が起きたわけなんだけど・・・」
「もうワシもいい歳だしのう。身体も動かなくなるし、この中のほうがいっそ快適じゃ」
「パパは今でもみんなの為に、新しい武器の開発とか、敵の弱点の分析とか、いっぱい考えてくれるのよ。良かったでしょ、みんな、パパが天才で」
「うわー・・・なんかオレ、引くわー・・・」
「オバサンのファザコンか。シャレにならないな」
「松戸博士・・・。なんか、僕が想像してたのとはかなり違うような・・・」
「みんな! パパの悪口を言わないで!」

 * * *

 かくして、小岩戦隊の記念すべき第一回目の戦いは終了した。
 この後、押しかけてきた報道関係者やら南商委やらと真樹子との面倒なやりとりや、三人の親御さんたちとのやりとり、焼肉屋での想像以上の出費、それにシャワー室で初めて気づいた、三人の身体に残った戦いの傷跡(幸い今回は、脇腹の青アザ程度)とその治療、などなどいろいろあったがここでは省略しよう。

 小岩戦隊、サンフラ和ー。
 彼らの戦いは、今、始まったばかりだ。道はまだ遠く険しい。だが彼らなら、きっと、最後までやりとげてくれるはずだ。
 頑張れ、小岩戦隊、サンフラ和ー!
 負けるな、小岩戦隊、サンフラ和ー!



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なんかもう、設定の説明だけでいっぱいいっぱいなカンジです。
長くなってすみません。前・後編にすればよかったかな。
主役の三人の性格とか、まだまだ固まっていないのですが、オタクな子を一人入れる、というのは最初から決めていました。自分の分身として、いろいろオタク語りをしてもらう予定。
マキコさんというのは、分身というより願望で、「若い男の子たちとの生活」というおいしいポジション、自分だったらどう楽しもうかな、という感じです。

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