プロフィール

イザク

Author:イザク
好きな物・好きな人(順不同)

昔のSF。宇宙とかロボットとかそういうSFっぽいもの。
本一般。映画一般。特撮ヒーロー。仏像。友情モノ。
西尾維新先生。舞城王太郎先生。荒木飛呂彦先生。奥泉光先生。円城塔先生。津原泰水先生。山岸涼子先生。松本大洋先生。三上骨丸先生。白鵬様。食パンちゃん。

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 オレ、天使。
 あだ名じゃないよ。キャラ設定でもない。
 強いていえば、種族? まあ少なくとも、ニンゲンとは違うんだよね。普通の人間には、オレたちの姿見えないし。
 じゃあ普通じゃない人間って、何よ? って話だろ。
 つまりさ、死にかけてる人間にはオレたちの姿が見えるんだ。
 分かりやすい言い方で言えば「死の天使」ってとこかな。死の世界に行こうとしている人間の道案内をしてやるのがオレたちの仕事でさ、黒い翼だって、ちゃんと背中に生えてんだよね。見えないだろうけど。
 オレたちの仕事が、人間の為のものだってことは、人間を作ったやつとオレたちを作ったやつは同じやつ、って事だよな。そいつを「神様」って呼ぶかどうかは、人それぞれだと思うけどね。オレたちだって誰も、そいつに会ったことないし、ただ毎日毎日、自分の仕事こなしてるだけだもんな。
 オレはこの、東京都江戸川区の、南小岩のあたりが担当でね、商店街や住宅地の上空を、トンビみたいにくるくる旋回しながら飛んでるんだぜ。天気のいい日は気持ちがいいからね、この仕事が好きだし、いい暮らしだよ。

 さて、その仕事がらみなんだけどね、まあ一日に何人ご案内するかは、平均して大体決まってるわけ。
 ところが、何か大事故とか自然災害とか起きると、一度に何十人もノルマが出来ちゃうだろ。とても一人では、さばけないわけ。
 かと言って、死んじゃった人間をほっとくわけにも行かないんだよ。何しろ全員、死後の世界に行くのって初めてじゃん? すぐに迷子になって、川で溺れちゃったり変な煉獄穴に落ちたりしちゃうんだよね。
 ただね、人が死にそうな時って、オレたちには前もって分かるんだよ。よく、「死亡フラグが立つ」って言うじゃん。オレたちの目には文字通り、旗が立ってるのが見えるわけ。そうじゃなきゃ、案内人なんてできないからね。
 でさ、一度にウワーッって何十本もの旗が立ってる時があるんだよ。たいてい、なにかの大事故の前触れなんだけどね。そんな時は、近くの仲間に急いで招集かけるわけ。すぐに何人かは集まるよ。オレも呼ばれたらすぐ行くし。お互い様だからね。
 
 それで、だよ。最近、小岩の、特に駅の南口の商店街のあたりで、そういう大惨事の前触れみたいのがよく起きるわけ。一か所にバーッと旗が立ってね。で、焦って近くの仲間に集まってもらってスタンバッってると、なんかいつの間にかその事故だか事件だかが解決しちゃってて、一人のお客さんも来なかった、そんなことがよくあるんだよ。大体、週一ペースかな。
 で、毎週、招集かけては空振りしてるオレの身にもなってよ。仲間たちにだってそれぞれ受け持ち地区があるわけだからさ、そこ留守にして他人のとこまでしゃしゃってて、自分のとこでお客さん迎えに行きそこなったりしたら大変じゃん。だんだん、オレに対する風当たりも強くなってくる、っていうかもうオレ、狼少年扱いよ。
 このままじゃオレの信用ガタ落ち、っていうか本当に手が足りない時、誰も手伝ってくれなくなったらヤバイからさ、オレは久しぶりに人間の世界に降りて、調べてみることにしたんだよ。
 いつの間にか旗が消えちゃう時って、見てるとね、どうも毎回、赤と青と黄色の奴らがからんでるんだよね。ほんとにさ、笑っちゃうくらい、全身真っ赤だったり真っ青だったりするんだぜ。何者よあいつら? でもどうも、そいつらが「あわや大惨事!」って場面を未然に防いでる感じなんだよね。そう、週一ペースで。

 オレは休暇願い出してね、新しく天使になったばかりの若い奴にオレの代わりに南小岩上空に張っててもらうことにして、地上に降りたよ。人間の姿を借りてね。
 空にいるときに、大体の当たりは付けてあったんだ。あの、赤青黄色の三人組は、南小岩の昭和通りっていう商店街から、ちょっと入った所にある「小岩戦隊・サンフラ和ー本部」っていう看板がかかった建物に住んでるんだ。まず、そこを探ってみることにする。
 オレの人間仕様の身体は若い男の外見をしているけれど、自由に不可視化もできるし、分子構造も違うから、誰にも見つからず壁でも扉でも通り抜けできる。
 そうやって、この「戦隊本部」に潜入して、だいたいのことは掴んだ。
 机の中の分厚いレポートや、壁一面のコンピュータの中のデータまで、全部見させてもらった。(何でそんな事ができるのかって? 天使舐めんなよ、人間よりは次元が上の存在なのさ)
 若い男が三人と、中年の女が一人、そいつらの会話も聞かせてもらって、分かったよ。

 こいつらは、オレの敵だってこと。

 敵と言っては、言い過ぎかな? 
 だけど、死ぬべき定めの人間が、その日その場所で死ななければ、世界のバランスが崩れるだろ? バランスが崩れるとどうなる? オレたちの仕事にしわ寄せが来る。
 オレたちが何の為にあの仕事を(記憶にある限り何千年もの間)続けているのかは知らないし、気にしたこともない。それは、オレたちより更に上の次元の、「神様」だか誰だかが知っていればいいことであって、オレの為すべきことはそんな事は考えず、自分のノルマをきっちりこなす事なんだ。世の中って、一人一人のそういう心がけで回ってくもんだろ。オレ、こう見えても責任感強いからね。 
 この「小岩戦隊」の連中は、大げさに言えば歴史を変えてる。歴史を作っている、と言った方がいいのかな。
 本来の歴史ではそもそも、こいつらの戦っている相手、ダークグリードって言うんだっけ、そんな奴はこの時代に存在しない。こいつらが呼び寄せてるんだ。そして、こいつらの行動のせいでこの後の、小岩の、日本の、世界の歴史が大きく変わってしまう。
 オレたちの活動は、ある程度歴史を先読みして行われる。つまり、この先この地域で戦争が起きる、となれば、ベテラン天使が何人も前もってその地区に派遣されるわけだ。
 こいつらみたいに、勝手に歴史を変えてしまう奴らが現れると、オレたちの仕事にマジでしわ寄せが来るんだよ。
 だからオレは、こいつらを潰すことに決めた。

 壁面コンピュータを通り抜け、更にその奥の小さな研究室に向かう。この部屋の壁は強固で、以前あったという爆発事故の時も、この部屋の中にあったものだけは無事だったんだ。鍵のかかったケースの中に手を入れて、オレはあるものを掴み出す。オレは手に触れた物体の分子構造だって変えることができるから、造作もないことだ。オレは取り出した小さな物体を観察する。

 こんなチャチな装置が、ねえ。

 オレは入ってきた時と同じように、無音のまま建物を出る。
 小さな装置を手に持ったまま。

 * * * *

 小岩戦隊の面々がガムをクチャクチャ噛みながら焼肉屋を出てきたのは春の夜もだいぶ更けた頃であった。
 江戸川区役所から、月一回の活動資金が振り込まれたのをいいことに、久々に外食にでも行こうか、という事になり、ケンタが、あ、オレ今日誕生日ッスよ、と言いだして(これで全員が十九歳になり、同じ学年だったことが判明)、じゃあパーッっと行きましょう、という事になり、金に糸目をつけずに焼肉屋での食べ放題とあいなったわけである。
 花の香りが混じる夜の甘い空気の中、昭和通り沿いに並んだ小さな飲み屋はどこも繁盛しているようだった。華やいだ雰囲気に誘われるようにして、食った食った、もう動けない、などとヒーローらしからぬ言葉を口にしながらこの通りをそぞろ歩いていていたサンフラ和ーの三人とマキコの耳に、聞き慣れた声が聞こえてきたのは、その時である。

 キイ、キイ、という奇声、それにつづいてフォーッフォッフォ、という高笑い、それから悲鳴、である。
 浮かれた気分が一瞬にして吹き飛んだ四人は、とっさに身構えて周囲を見わたした。
 いる。
 昭和通りの出口近く、特に赤ちょうちんが立ち並ぶあたりに、あのトカゲ怪人どもと、ヒョウタンに手足が付いたような怪人とが、道行く人たちに襲い掛かっているのであった。
「春宵一刻値千金、一杯一杯復一杯。今日の一杯、明日への活力。酒は百薬の長。サラリーマンの皆様、お疲れ様。今夜も一杯、いかがかの? フォッフォッフォ」
 ヒョウタン型怪人の頭は、大きなジョッキの形だった。中には半分ほど、泡立つビールが入っている。
 走り出したケンタ、シュート、ハルの三人は、この怪人どもの正面まで来ると、並んで向き合った。
「出たなヒョウタン、小岩住民のいこいのひと時を邪魔しやがって! オレ達サンフラ和ーが、相手をさせてもらおうか。今夜の酒の肴は、ちょっとばかり辛口だぜ!」
 威勢よく啖呵を切ると、三人は並んでスーツに変身した。三色揃うと、夜目にも鮮やかである。
 あたりを囲んだ観衆から、いっせいに拍手と歓声が響いた。
「出ましたサンフラ和ー! いいぞお、派手にやれ~!」
「ヤンヤヤンヤ」
「ちょっとそのまま、ポーズ取っててくれ。写メ撮るから・・・」
 ・・・なにやら、酔っ払いが浮かれているとしか思えない反応である。ピンチに駆けつけたヒーローに送る声援とは思えない。
「・・・あれ?」
 戸惑うサンフラ和ーの三人が周囲をよくよく見まわしてみると、トカゲ達もジョッキ頭も、手に手にビールの入ったジョッキを持って、道行く人に勧めているのであり、その勢いが良すぎて襲い掛かっているように見えていたのだった。「無料試飲会 ご自由にどうぞ!」という看板まで、何本も立っている。
 悲鳴が聞こえたのは、トカゲにいきなりビールを渡された若い女性が驚いた時の声だったようだ。今は皆、ジョッキを片手にニコニコと楽しそうに只酒を飲んでいる。
「なんだよこれ・・・おいヒョウタン、お前ら、人間襲わないの?」
「我が名はジョッキー・チェン。チェン老師と、呼んで欲しいのう。酒は人生最良の友。いつもご迷惑をかけている小岩の皆さんに、今夜はせめてもの罪ほろぼしの、大盤振る舞いじゃ。おぬしらも一杯、いってみるか?」
「ちょ、ちょっとそれマズイっすよ。オレら未成年だから・・・」
「どういう事だ。こいつは敵じゃないって事か」
「油断しちゃ駄目ですよ! 最初は友好的でも、後から本性を出してくるパターンはいっぱいあるんですから・・・ってマキコさん! マキコさんがそのビールもらって、どうするんですか!?」
「戦隊の代表として、このビールが本物かどうか試す義務があるのよ! さっそく飲んでみましょう・・・プハーッ、最高!」
「マキコさん、最低・・・ただ飲みたかっただけじゃないですか・・・」
「大丈夫よこれ、普通のビールだわ。ねえ皆さん、おいしいわよねえ、あーははは!」
「何をいい気持ちになってんだよ。酔いが回るの、早すぎるだろ・・・」
「・・・ケンタ、ハル、見ろ! やつの頭のジョッキが、いつの間にか一杯になっているぞ?」
「そうか、このビールはやっぱり酔いが回るのが早い特別性なんですね。そうやって効率よく酔いを回収して、あの頭のジョッキにエネルギーとして溜めこんでいたんだ!」
「・・・ほほう黄色いの、なかなか聡いのう。よく気付きおった」
「今までにも、戦隊ものに酔拳を使う怪人はいましたからね! 『ダイレンジャー』の豆腐男爵とか」
「そうじゃ、ワシは酔えば酔うほど強くなる、酔拳の使い手。だが、最近肝臓の調子が悪くての。戦いを始める前には、いつもこうして酔っぱらいたちを利用させてもらうのじゃ。酒好きが、タダ酒の誘惑に勝てるわけはないからのう。このワシの技は酔いと一緒に、人間どものエネルギーも吸い取ってしまうのじゃ。ワシはパワーアップする、人間どもはどんどんエネルギーを吸われてやがて死に至る、一石二鳥じゃ。フォフォフォ・・・」
 そう言ってジョッキー・チェンは三人の前にふらりと立って、身構えた。
 足元が定まらない、隙だらけの構えのようでいて、いざ攻め込もうと思うと逆に隙が見えない。非常に、戦いにくそうな相手である。
「おお、良い心地じゃ。お前らの相手はこいつらにしてもらって、しばらくこの酔い心地を楽しませてもらうとするかの」
 そう言ってジョッキー・チェンが手を振ると、ジョッキを通行人に押し付けていたトカゲ頭の怪人たちがいっせいに集まってきて、サンフラ和ーの三人を取り囲んだ。見れば、さっきまでビールを飲んでいた人たちはみな、酔いつぶれて路上で寝ているではないか。もちろんマキコもその中にいる。もう飲めません、などと幸せそうな顔で寝言を言ったりしているあたりが、救いといえば救いである。

「やっぱり、結局こうなるのかよ。よし、気を取り直してオレたちも、食後の腹ごなし、させてもらうぜ!」
 ケンタの言葉を合図に、三人は三方へ散った。足元に倒れている人を踏まないように気をつけながらだったが、トカゲ相手なら遅れをとるサンフラ和ーではない。数分後には、全員綺麗に片づけて、まだふらふらと立っているショッキー・チェンの前に立った。
「覚悟はいいかい爺さん。あの世に行ったら、肝臓のことなんか気にせず好きなだけ酒が飲めるぜ、たぶんな」
 ケンタはそう言いながら、一気に間合いをつめて上段からの蹴りを放った。剣や銃は通行人を巻き込む恐れがある、相手が拳法ならこちらも拳法で相手をしてやれ、そう思っての攻撃だったが・・・。
 相手が身体をゆらり、と倒し、ケンタの足は空を蹴った。ジョッキー・チェンはそのまますいっ、と手を上げてケンタの足を払う。バランスを崩してケンタは地面に転がった。
「え・・・? 今、何やったんだよ爺さん!?」
「気を付けて、ケンタさん! 酔拳の動きは他の格闘技と違って、予測できないんです!」
「よし、じゃあハル、二人で同時に行こう。いくら酔拳でも、二人の動きを同時に読むのは無理だろう」
 そう言って、こんどはシュートが右手から攻めこんだ。ハルも、その言葉に反応し左手側からジョッキ頭を攻撃する。
 こんどは、ジョッキー・チェンはすっ、っとその場にしゃがみ込んだ。二人の攻撃は空を切り、怪人の身体のあった場所で互いにぶつかり合う。そこへ、下から大きなジョッキの頭突きをくらい、二人の身体は左右に飛ばされた。
「くっ・・・! 強いぞ、こいつ!」
 思わずつぶやいたシュートのマスクに、冷たいものがかかった。
「なんだこれは・・・。ビールか?」
「おお、しまったわい。うっかり頭突き技を使ってしまったので、大事なジョッキの中身がこぼれてしまったわい」
 ジョッキー・チェンはそう言ってうろたえた。見ると、確かにさっきまでいっぱいだったジョッキの中身が、半分以下に減ってしまっていた。
「素面では戦えぬ。やはり、ジョッキに蓋を付けてもらわねばならぬようじゃの。酔いも覚めたわい。今夜はこれでお開きじゃ。また来るからの、待っておれ」
 そう言うと、ヒョウタンの身体にジョッキ型の頭をした怪人は、フォフォフォ、と高笑いとともに消えていった。

 路上に倒れた人たちがみな、頭を抱えて立ち上がった。酔拳の術が解け、酔いはすっかり覚めたようだが、どうやらひどい頭痛に襲われているようだ。エネルギーを吸われた後遺症らしい。
「やっべえ・・・あいつけっこう強かったな。ちょっとマジで、本部に戻ったらあいつの拳法、研究しないとヤバイよ・・・」
「ああ。酒がこぼれて助かった。次に会う時までに何とか攻略法を考えないとな」
「とりあえず、ジャッキー・チェンの映画でも見ましょうか・・・」
 まったく歯が立たなかったショックから、すっかり意気消沈してしまった三人が、のろのろと変身を解こうとしている時だった。

 聞きなれない、若い男の声が響いた。
「ちょっと兄さんたち。もうちょっと、そのままでいてくんない? オレ、相手して欲しいんだよね」
 三人はいっせいに振り返った。
「誰だ?」
「何の用だ」
「僕たち、遊びや冷やかしは相手にしませんよ?」
 物陰から、黒い影がゆっくりと姿を現した。
 全身黒ずくめの、髪の長い男である。
「迷惑なんだよ、あんた達。今、見てたけどさ、あんなヒョウタン、一気に片づけちまえよ。でなきゃ、一気にやられちまいな。あんた達みたいに、負けそうなくせに偶然助かったりラッキーで乗り切ったりされると、こっちの予定が立たなくてほんと迷惑なんだよね」
 軽い口調でそんな事をいいながら、三人の前に出てきて腕を組んだまま、両足を開いて立った。
「オレ、あんた達に恨みもないし別にどうこうしようってんじゃないよ。ただ、力不足なんだから最初から大人しくしてて欲しいんだよね。チョロチョロ動かれると、ほんと、・・・」
 そこまで言って黒い男は、右手をさっと上げた。
 一瞬、見慣れた輝く霧が男の身体を包んだ。霧が晴れると、そこには漆黒のスーツの男が立っていた。
「邪魔なんだよ」
 
 黒いスーツは、ケンタ達の着ているスーツとまったく同じものだった。ただ、色だけが違っていた。
「な、何だよそのスーツ! お前いったい・・・?」
「説明するのは面倒だしどうせ分かんないんだよ、あんた達には。要は、あの怪人集団の始末はオレに任して欲しいってこと。今から、勝負してくれよ。オレの方が実力は上だって事を証明するから、負けたら大人しく手を引いて欲しいんだよね」
 サンフラ和ーの三人にも、曲りなりにもこの地の平和を守って来たという自負がある。ここまで言われて、引き下がることなど出来ない。
「おもしれえ! 相手になるぜ。お前こそ、負けたら二度とオレ達の前にその黒いスーツ見せんなよ。恥ずかしくって、出てこらんないだろうけどな」
 そう言ってケンタはさっと身構えた。だが、黒いスーツの男は姿勢も変えず立ったままである。
「面倒だからさ、三人いっぺんに、かかって来てくんない? 身体使うのって何百年ぶりかだからさ、サクッと終わらせたいんだよね」
 ここまで挑発されれば、さすがにシュートとハルも黙っているわけにはいかなかった。
「ふざけるな。何のつもりか知らないが、こっちこそあんたに邪魔されるわけにはいかないんだ」
「その痛いキャラは、実際に痛い目に会わないと治らないんですかね?」
 二人はそう言いながら一歩前に出て、ケンタの左右に並んで身構えた。
「準備はいい? じゃ、行くよ・・・」
 黒いスーツの男はそう言って、組んでいた腕を解き、わずかに身をかがめた。
「ウッ!」
「ぐっ!」
「わあっ!?」
 次の瞬間、サンフラ和ーの三人の身体は空中を舞い、アスファルトの上に叩きつけられた。
「サクッと、終わっちゃたね・・・」
 黒い男は三人の真ん中に立って、また腕を組んだ。
「ちっくしょう・・・。何だよ今の。変な術使いやがったな・・・?」
 ケンタがそう言って、身体を起こそうとした。黒い男は、動いたようにすら見えなかった。だが次の瞬間には、ケンタの赤いスーツは飛ばされて、今度は仰向けに、道路に落ちた。
「ぐ・・・うっ!」
「ケンタ!?」
「ケンタさん!」
 シュートとハルも、立ち上がろうとする。その前に黒いスーツが立ちはだかった。
「これ以上、続けてもいいけどね、大体分かったでしょ? 後は帰って、良く考えてよ、オレの言ったこと。じゃ」
 そう言って、姿を消した。

 道路に倒れたままの三人は、ゆっくり立ち上がった。そこにマキコが、頭を押さえたまま駆けつける。
「みんな、大丈夫?」
「やっべえ、負けた・・・超負けた」
「マキコさん、何だよ今の黒いスーツ。あんた、何か知ってるのか?」
「スーツの性能が、明らかに僕たちとは違いましたよ・・・?」
「ごめん、知らないわ、あんなスーツのことなんて。とにかく帰って、パパに聞いてみなきゃ・・・」
 三人は変身を解き、痛む身体と重い頭を抱えて帰途についた。

「黒いスーツ、じゃと? まさか・・・大変じゃ、研究室の黒のチェンジャーがなくなっておる!」
 四人から話を聞いた松戸博士は珍しく驚いた声を出した。
「黒のチェンジャー?」
「うむ。サンフラ和ーのスーツを研究していた時、最初に作った試作品じゃ。電子ロックをかけてしまっておいたのじゃが、なくなっておる。ロックを開けた形跡はないのに・・・不思議じゃ」
「パパ、その黒のチェンジャーって・・・」
「試作品のスーツの色は、黒だったんじゃ。太陽エネルギーを吸収して、スーツのパワーを高める機能を持たせようとしたんじゃが、うまく行かなくて結局そのままにしておった」
「なあ博士、その黒いスーツって、オレたちのスーツより性能いいのかよ」
「今、何時じゃ・・・夜の十時か。うむ、この時間なら、黒は無敵じゃな」
「何だよそれ・・・。黒は試作品じゃないのか?」
「そもそも、あの男は誰なんですか?」
「分からん・・・今、この本部のモニターも全部チェックしてみたんじゃが、怪しい者が出入りした形跡はない。じゃが、ロックには手をつけずにチェンジャーだけを盗み出したとなると、只者ではないわい」
「やばいじゃんオレら・・・。あの、ヒョウタンにも負けてんだぜ?」
「そうじゃな・・・そっちの対策を考える方が先かのう。黒い方は、明日の夜までに何か考えておくとするかの」
「夜までって、・・・パパ、そんなのんびりしてていいいの? 昼間から出てきたら・・・」
「そうなってくれたら、むしろ有難い。どうしてかと言うとな・・・」


 さて、翌日は快晴、絶好のお花見日和である。
 日曜日ということもあって、篠崎公園には朝から花見客が大勢押しかけていた。
 篠崎公園は小岩からほど近い場所にある広い公園で、十月には江戸川区の区民祭りもここで行われる。四季を通じて住民のいこいの場となっており、桜も毎年、見事である。
 我らが小岩戦隊の面々も、この日は篠崎公園へ花見に訪れていた。
 前の晩にいろいろな問題があったというのに呑気なものだと思われるかもしれないが、住民が集まる場所に前もってスタンバイしておくのも、彼らの重要な任務である。ましてや、昨夜の敵はアルコールがらみ。十中八九、今日のこの篠崎公園の花見客たちを狙ってくるだろう、という予測のもと、サンフラ和ーの三人は朝から緊張しながら、それでも樹の下のいい場所にシートを敷いて花を眺めているのであった。
「ああ、いい天気だなあ」
「暖かくて」
「眠くなりますね」
 前の晩はあれから、ジャッキー・チェンの映画を見つつ、酔拳の研究をしていたのである。
 一通りの動きは身に着けたものの、いかんせん彼らは未成年、酒の味も知らぬ(一応、建前上は)身で、酔拳のエキスパートであるあのヒョウタン怪人に太刀打ちできるレベルに達したとも思えない。そこで更に夜を徹して計画を練り、酔拳対策を考えてきた。黒いスーツのほうは何も対策が練れていなかったが、それは気にしなくてもいいと博士が言うのでひとまず眠ることにした。その時点でもう明け方である。
 更に今朝も早い時間から、こうして場所とりと見張りを兼ねてこの公園に陣取っているわけで、これはもう眠くても仕方がない。
 今日はおれはあんまり出番がないから、お前らちょっとでも眠って体力を蓄えておいたほうがいいぞ、とシュートが言うので、ケンタとハルはその言葉に甘える事にして、シートの上に身体を長く伸ばして横になった。
「じゃ、あとヨロシク」
 そう言って目を閉じるとすぐに二人とも寝入ってしまった。まったく、寝るには良い陽気である。
 
「起きろ、ケンタ」
 身体を揺すられて目を覚ます。
「もう出たのか!」
 ケンタは跳ね起きた。子供の頃から、寝起きはいい。
「いや、ちょっと違うんだけどな、あそこ、見ろよ・・・」
 シュートが目配せする方向を見ると、ピンク色の大きなシートの上に、サンフラ和ーの三人と同じくらいの年恰好の女の子が三人座って、こちらをチラチラ見ながら顔を見合わせてはクスクス笑っている。お花見女子会の場所取り係、といった感じである。
「さっきからこちらを気にしているんだ。まだこの時間はお互い暇だし、せっかくだから、シートごとお近づきになりたいかな、って思うんだが・・・」
「いいッスねそれ! じゃオレ、ちょっとアタリ付けて来るッスよ」
 軽くそう言ってケンタは裸足のまま芝生を踏んで、ピンクのシートに近づいた。
「ねえ、オレたちも今、暇なんだけど良かったらちょっと話そうよ」
「あ! やっぱりそうだ。ねえ、三人とも、サンフラ和ーの人でしょう?」
「わあ、本物だ、すごーい!」
「本物、かっこいいじゃん! 一緒に写真撮っていいですか?」
「えーとあなたは、赤い服着てるからケンタさん、ですよね?」
「ケンタさん!」
「ケンタ!」
「いや、写真は一人ずつでね」
「何が写真だこの馬鹿が!」
「あれえ? 声が急に低く?」
「ケンタ! 起きろこのネボスケ野郎が!」

 ケンタは今度こそ目を覚ました。
「シュート? あれ、彼女たちは?」
 ケンタは跳ね起きた。本当に、寝起きはいいのである。
「いい夢を見ていたみたいだな。現実を見ろ。出たぞ」
 シュートが指さす方を見ると、いつの間にか公園中に花見客があふれかえり、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎになっているその真ん中に、夕べのヒョウタンの身体にビールジョッキの頭をした怪人と、トカゲ頭の怪人どもが現れて、またもビールの試飲会を始めているではないか。
「ハルも起こさないと。おいハル、起きろ! よくこんな騒がしい中で眠っていられるな」
「うーん・・・ああ、ロッソにアッズッロ? わたくしは、なぜこんな所に?」
「お前も、寝ぼけるんじゃない! まったく、どいつもこいつも」  
 三人に緊張感がないのも無理はない。春うららかな陽気、お祭り騒ぎの雰囲気の中で、怪人たちの異様な風体もコスプレか何かと思われているようで、悲鳴をあげるものはおろか怖がるそぶりを見せる者すらいない。
「なんか、溶け込んでるなあ・・・」
「おれも正直、気が付くのに時間がかかったよ。いい気持ちになってる人たちの邪魔するようで申し訳ないけどな、でもひどい事にならないうちにきっちり奴を倒さないと」
「もちろんですよ!」

 三人はシートの上に立ち上がって変身を決めた。どうせなら、花見客たちに注目されるようにもっと真ん中へんで変身すれば良さそうなものだが、三人とも素顔で人前に出るのはまだちょっと恥ずかしいのである。
 さて、スーツ姿となった三人は無言で顔を見合わせて大きく頷き、三方に散った。赤と黄色は別方向からヒョウタンの方へと向かい、青は桜の樹に登る。
「花を愛で酒を愛す。花鳥風月、風流ここに極まれり。フォッフォッフォ、日本の心に、今日も元気だこのこの一杯」
「おい、相変わらず調子のいいこと言ってんじゃねえか。無礼講もほどほどにしねえと、人間関係にもヒビが入るってうちの親父が言ってたぜ」
 浮かれた様子のジョッキー・チェンの前に、真っ赤なスーツのケンタが姿を現した。
「酔拳だか何だかしんねえけど、ただでさえ小岩は酔っ払いが多いんだ。親父が肝硬変になったら、泣くのは子供たちだろうがよ!」
 そう言って身構え、ちらと視線を黄色いスーツのハルの方向に走らせる。
 背後からトカゲ達に近づいたハルは、怪人どもが用意したビールのタンクの栓を、こっそり抜いてしまっていた。これでもう、エネルギーの補給はできない。
「OKですよ、ケンタさん!」
 そう言って指でOKサインを作るハルを確認してケンタはジョッキー・チェンに向き直り、わざと身体のバランスを崩して立った。
「酔拳ってえのは、こんなモンだったかなあ、爺さん?」

 自慢の酔拳を馬鹿にされて怒ったジョッキー・チェンが何か言おうと一歩前に出ようとしたその時である。
「手え引け、って言ったじゃん・・・。兄さんたち、頭悪いの?」
 聞き覚えのある声がして、人垣の中からスッと姿を現したのは、漆黒のスーツ。夕べの、あの若い男である。
「こいつらはオレに任せろって、言ったはずだよ。第一あんた達はさあ・・・」
「ええい邪魔じゃどかんかっ!」
 ジョッキー・チェンが黒いスーツを蹴り倒した。
 黒いスーツは数メートル吹っ飛んで、うつ伏せに倒れて動かなくなった。
「弱っ!」
「博士の言ったこと、本当でしたね・・・」
「お前らゴチャゴチャとうるさいわ! 聞いていると悪酔いしそうじゃ。おとなしくワシに倒されれば良いものを」
「本性を出してきましたね。じゃあ僕らも本気でお相手します」
 そう言ってハルとケンタは襲い掛かってくるトカゲどもを、付け焼刃の酔拳で右に左にとなぎ倒していった。一夜漬けだったが、格闘技に関してはそれなりのトレーニングを日々積んでいるおかげで何とかサマになる。
 酔拳は見た目が楽しい拳法である。見物の花見客たちも、思わず二人に拍手喝采を送った。本人たちはともかく観客席から見れば、いい余興である。

 トカゲを全部倒していよいよヒョウタン、いやチェン老師と向かい合う二人。
 それを離れた樹上からじっと見つめる青いスーツのシュート。
「まだかな・・・。もうちょっと待ったほうが良いだろうな。それにしてもさっきの黒いやつ、ひどかったな」
 そう言いながらすでに起動してあるスプラッシュバズーカを肩にかつぎ直し、ヒョウタンとそれに向かい合う赤黄のスーツを見守っている。
「ゆうべもこのワシには歯が立たなんだというのに、また負けに来るとは、いい心がけじゃの、若いの」
「大人しくゲートボールでもやってりゃ、もう少し長生きできたのにな。オレら、あんたの弱点、分かっちまったんだよ。こんな満開の花の下で死ねるなんて、幸せもんだぜ爺さん!」
「個人的には酔拳って好きなんですよ。だから僕らが、酔拳の型であなたと戦うのは最大限の敬意だと思ってください・・・役立たずの泥酔した老人に対しての!」
 そう言って二人は身構えた。
 チェン老師も、例の隙だらけのように見える立ち方で相対する。
 どちらからともなく、一瞬の間に三人は戦いに入った。
 老人とはいえジョッキー・チェンは名だたる酔拳の使い手、対するケンタとハルは二人掛かりとはいえ、さすがに分が悪い。だが、夜を徹して研究を重ねたかいあって、何とか相手の動きに付いていっている。
 酔拳の達人同志の対戦は、傍目には優雅な舞いのようにも見える。あたりを囲んだ酔客たちからは、またも盛大な拍手が沸き起こった。
「やっべえ、もう無理かも・・・キツくなってきた」
 ケンタが、ジョッキー・チェンには聞こえないようにこっそりハルに通信を送る。もうかなり、息も切れてきている。
「ぼ、僕ももう合わせられません・・・そろそろお願いしましょう。シュートさん!」
「了解。思ってたより、長持ちしたな。偉い偉い」
「ふん。何かお互い同士でもそもそ喋っているようじゃな。逃げるタイミングの相談かの」
「ち、ちげーよ爺さん。あんたの弱点、そろそろ攻めてみようかな、っつー話だよ」
「フォッフォッフォ、もう息も上がっているようじゃな。若いくせにだらしがないのう。弱点とな。ちゃんと今日は、ジョッキに蓋を付けてきたからの。これでもうビールがこぼれる心配もないぞえ」

 そう言葉を交わしながら戦い続ける三人に、いつしか細かい春の雨が降りかかっていた。
 もちろん、周囲一帯の花見客の上にも。
「うわ、雨だ・・・。参ったな、今日は一日晴天だって言ってたのに」
「大変! 洗濯物を出したままで来ちゃったわ」
 先ほどまで、いい気持ちでほろ酔い気分を楽しんでいた観客たちは、たちまち酔いが醒めてしまった。
「な、何事じゃ? ビールがこぼれた訳でもないのに、酔いのエネルギーが急に減ってきておる!」
 ケンタとハルにも、ジョッキー・チェンの繰り出す技の冴えが、急速に衰えてくるのがはっきりと分かった。
「あなたの弱点は、エネルギーを、外部に頼っている、ことですよ。き、供給を断たれれば、お手上げなんです」
 ハルももうかなり息が切れてきて、まともに喋れなくなっていた。だがここが、踏ん張りどころである。二人に、眠って体力を蓄えておけと言ってくれたシュート、樹の上から広範囲に広げたスプラッシュバズーカを放って、この一帯だけに春の雨を降らせたシュートの為にも、ここで決めなければならない。
 ジョッキー・チェンはついに防御の型も崩れはじめ、二人の突きを同時にヒョウタン型のボディにくらってよろよろと後ずさった。
「バカな。お前らのような若造に、このワシが・・・」
「世代交代、って奴だろ爺さん」
「認めたくないものですよね。老いゆえの自らの衰えというものは」
 ケンタとハルはそう言って、相手から身体を離してガンモードを起動させ、よろめく相手の、ジョッキ型の頭部に狙いを定めてレーザービームを放った。ガラスのジョッキは音を立てて砕け散り、中のビールは残らず地面にこぼれ落ち次の瞬間には、派手な音を立ててヒョウタン型の身体も吹き飛んで、煙が薄れ後に何も残っていないのが確認できる頃には、雨もすっかり上がってまた晴天とポカポカ陽気が戻って来ていた。

「やった・・・! 今日は疲れた」
「僕もです・・・あ、シュートさん無事でしょうか。樹から落ちたりしてないかな」
「ああそうだ。あいつ眠ってないもんな」
 変身を解き、急いでシュートの登っている樹まで走ってくると、同じく変身を解いたシュートが太い枝にまたがったまま、幹に背中を預けて二人に向かって手を振った。
「今日はお前たちのほうが大変だっただろ。おれは、雨を降らせただけだから、そんなに疲れていないよ。もうすぐ降りられる。それより、・・・」
 そう言ってシュートは樹の上から、少し離れた場所を指さした。
「あいつの方が大変なんじゃないのか?」

 ようやく下に降りてきたシュートと三人がかりで、うつ伏せに倒れたままだった黒い服の男の身体を引きずってシートまで運んできた。
 声を掛けてみたり、軽く頬を叩いてみたりしたが、目を開かない。
「何か飲ませてみよう。紙コップ取ってくれ」
 シュートがそう言って男の上半身を抱えて起こし、紙コップにペットボトルからウーロン茶を注いで男の口に流し込んだ。
 男は少しむせて、ゴホゴホ言いながらようやく意識を取り戻した。
「ああ良かった。おい大丈夫だったか、黒い兄さん」
「ゴホッ・・・オ、オレは・・・おいお前たち、オレに何を飲ませた!?」
「何って・・・ウーロン茶だけど」
「ウ、・・・ゴホッ、ウーロン茶だとおお!?」
「そんな驚く事か。あんたの弱さの方がよっぽどビックリだったぞ?」
「夕べの強さは何だったんッスかねえ」
「とりあえず、これ以上僕たちの邪魔をしないでくれると助かるんですけど・・・?」
「ふ、ふざけるな! ふざけるなよ貴様ら人間の分際で!」
 黒い服の男はそう叫んで飛び起きた。
「貴様ら、このオレに何か術を使ったのか? オレがこんなに、弱いはずがない・・・!」
 青ざめた顔で叫ぶ男に、サンフラ和ーの三人は肩をすくめて見せる。
「知らなかったんですか? あの黒いスーツ、昼間は全然役に立たない、ってこと」
「松戸博士が言ってたッスよ。黒いスーツは、昼間集めた太陽エネルギーをスーツのエネルギーに変換する機能があるって。だけど、その変換に約十二時間かかるから、夜中の十時から深夜二時あたりまでが最強なんだって」
「逆に、昼間の午前十時から午後二時の間は、スーツの機能がまったく働かない。その上、黒のスーツはエネルギー変換効率重視だから、筋力アップ効果や耐衝撃性効果もほとんどない。昼間なら、スーツを脱いで戦った方がまだマシなくらいだ。少なくとも、視界はその方がいい」
「な、何だとお・・・」
「そういう、使い勝手の悪いスーツだったから、試作品止まりでお蔵入りだったんだ。博士も驚いていたよ、あんな綺麗な手際で、あんな役に立たないものを盗むとは、って」
「夜に限定して僕たちを襲う、という計画を立てようとしているんなら、無駄だって言っておいてあげますよ、親切心で。博士に、僕たちのスーツにも同じ太陽エネルギー変換装置をつけてもらうように頼めばいいだけの話ですから」
「要するにさ、アンタが何をしたかったのか分かんないけど、オレら一応これで、小岩の平和守ってっから。手を引けって言われて引けるもんじゃないし、敵が強くても何とかして勝つのがオレらの役目だから。アンタ、またかかって来てもいいけど、せっかく色違いのスーツ持ってんだから、第四の戦士みたくオレらに協力してくれたら嬉しいけどな」
「夜間限定でな」
「夜の戦士。ジゾーブラック、ですね!」
「あ、それ上手い!」
「ジゾー。いい響きじゃないか」
 ちなみに「地蔵通り」とは、小岩駅南口にある風俗店や飲食店が立ち並んだ小さな通りのことである。夜ともなれば、中国語韓国語タイ語フィリピン語が飛び交うミニ新宿歌舞伎町、不夜城の様相を呈する、良い子は決して立ち寄らない大人専門の一角である。もちろん、南小委とは何の関係もない。
「ち、調子に乗るな! いいか貴様ら、このままで済むと思うなよ・・・!」
 黒い服の男は立ち上がり、捨て台詞を残してよろよろと歩み去った。
 それを見送るサンフラ和ーの三人。
「・・・何だったんッスかね、あの人?」
「さあ?」
「熱狂的戦隊オタ? 違いますか。でもいいですね『ジゾーブラック』。いかにもゲストキャラみたいで」
「地蔵通りを入れたら、良い子の戦隊じゃなくなっちゃうッスよ!」
「そうだ。下手したら、区役所からの活動費も打ち切られるぞ」
「うーん・・・それは避けたいですね・・・」

 そんな感じでリラックスした会話をだらだらと続けているところに、マキコが大きな荷物を抱えてやってきた。
「あー、遅くなってゴメン! お弁当作ってたらついつい力が入っちゃって。あんた達どうせいっぱい食べるし。それでね、車に積んで出そうと思ったら、こないだのお好み焼き屋さんの店長さんとバッタリ会って、戦隊のお花見ならぜひご一緒したいって言うから誘ったの。あの、山本さんっていうアルバイトの女の子と一緒にもうすぐ来るわよ、鉄板とお好み焼きセット持って。あと、小谷さんと史織さんにも声かけたから。お天気もいいし、さあ今日は盛り上がるわよー!」
「マキコさん、お花見の事しか考えてないッスね。オレら、さっきまでここで戦ってたんッスけど・・・?」
「あらいけない! ごめんなさい、そうだったわね。で、どうだったの? 上手くいったんでしょ、パパの計画通り」
「・・・まあ確かに、博士の言った通りだったよ」
「そ、それより、山本さん呼んじゃったんですか。姉ちゃんと小谷さんも来るって事は、さ、三対三・・・? ぼ、ぼ、僕はもう、帰らせてください・・・!」
「失礼な。私と店長さんもいるんだから、四対四でしょうが!」
 そうこうする内に、店長と山本、小谷、史織が到着。店長は、ポータブルカラオケセットまで持ってくる用意周到ぶりである。
 一人うろたえまくるハルを無視して、花見は大いに盛り上がったという。

  *  *  *


 やばい。
 超やばいよホント。
 オレら天使は今回みたいに必要に応じて人間の姿を取ることがあるけど、その時絶対に、地上の、人間の食べ物や飲み物を口にしてはいけないんだ。
 体内に地上の食物を取り入れるって事は、オレらの身体を構成する分子が、地上のものと入れ替わっていくことを意味するわけ。つまり、仮の姿のつもりで人間に変身してても、ずっとその姿のままでいなきゃならなくなるわけ。
 それどころか、もっと進むと、人間と全く同じになるわけ。歳をとって、病気して、死ぬようになるわけ。
 そりゃあ中には人間の女に真剣に恋をしてしまって、自分から人間になるって決めて、この天使の不死の身体を捨てて地上に降りる奴もいるよ? でもそれは、よっぽどの物好き、ってか酔狂な奴だよ。
 しばらく絶食してウーロン茶の成分が身体からすっかり抜けるのを待つしかないのかなあ。
 ああ、空で後輩が「僕にまかせておいてください」って言ってる。どうしよう、奴に小岩の空、取られちゃったら。北極に飛ばされたら嫌だなあ。あそこ寒いし、暇すぎるんだよ。
 いや、そもそも、オレが最初強かったのがスーツの機能のおかげだった、ってのもショックだったし。ちゃんとあの研究室で、設計図に目を通してれば良かったよ。ただの色違いなのかと思ってたからなあ。もし奴らがあのスーツのおかげで強くなってるにしても、自分も同じ条件なら絶対勝てるって自信があったから、あの黒いスーツ着てたのになあ。
 それにしてもオレ、人間にも負けるくらい、弱いのかなあ。そんな事はないはずなんだけど、考えたら何百年も肉体を使ったフィジカルな格闘なんてやってなかったしなあ。もうちょっとここに入ったまま、身体を使う感じを思い出した方がいいのかなあ。
 それにしてもなあ。天使のプライド、ズタズタよ。 
 いや、人間に負けたわけじゃないよな、あの怪人に負けたんだ、うん。

 とにかく気を取り直して、もう一度対策を練ってみよう・・・。

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死の天使が恋をして人間になるという話は、ニコラス・ケイジの映画にありましたね。「シティ・オブ・エンジェル」というタイトルです。ゲンナリするほど甘い映画でした。

「篠崎公園」というのは我が家から歩いて15分位のところにある無駄に広い公園です。何もない公園ですが春のお花見・夏の花火大会・秋の区民祭りのときはなかなかの賑わいを見せます。いい所なのですが駅から遠いので普段は閑散としています(T.T)
「地蔵通り」というのは、駅を南口に降りてすぐ左にある通りで、小岩のダークサイド(笑)といいますか、まあ要するにリトル風俗街です。ホストクラブもありますし、ヤクザさんみたいな人もよく見かけます。
(ダークサイドはさすがに言い過ぎか。普通の飲食店等もたくさん入っていますし、単に風俗系の店が多い、って程度ですけどね。←地蔵通り関係者の報復を恐れて自粛)
こんな通りが堂々(?)と駅前にあるあたりが小岩の懐の深いところで、郊外型ショッピングモールしかないピカピカの住宅地などより、よほど子供が健全に育つのではないか、と本気で思っています。
最初に「小岩の戦隊を作ろう」と考え始めたとき、商店街の名前にすることは思いついたのですが、「それなら、途中で出てくる第四の戦士は、ジゾーブラックで決まりだな」って、すぐに名前と色まで最初に考えつきました。っていうかもう、ジゾーブラックを出したくて戦隊ものを始めたといってもいいくらい。
しかし実際に出すとなると思いのほか設定に悩んでしまい、でもジゾーだったら夜しか役に立たないだろうな、という気持ちもあり、今回ようやく出せて肩の荷が下りた思いです。
しかしこれで、最初にボンヤリと考えていたネタをすべて使い果たしてしまい、次回からは全くの白紙状態です。が、がんばります・・・。

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