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イザク

Author:イザク
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無題
中村文則 著 2013年 幻冬社刊

最近、海外でも高い評価を受けているという中村文則。
特にこの『去年の冬、きみと別れ』は本屋大賞にもノミネートされており、現在のところ、『掏摸(スリ)』と並ぶ中村文則の代表作という位置づけです。
図書館で予約をしていたのですが何か月も待って、ようやく読むことができました。

内容について触れる前に、印象をひとことで言うと、「村上春樹の上位互換」(笑)
何というか、主人公のちょっとストイックな、ちょっと気障な感じが似ている。
で、その「僕」が、草食系のくせにエロ要素を避けないのも似ている。
人間心理や社会の奥にある「悪」というものがどことなく抽象的な感じも似ている(うまく言えないのですが、登場する「悪人」が生臭くない、純化された「悪人」であるような印象を受ける)。
そして文章は、村上春樹よりも静謐でキレイ。
まあ、文章の好みは人それぞれなのでここは評価が分かれる所ですが、私個人の感想から言えば「こんなに文体の気持ち良い本は久々に読んだな!」という感じでした。

その、カッコ良くてちょっとクサくて、しかも薄い氷の上をヒタヒタと歩いて行くような静謐な気配を持った文章を、少し引用してみましょう。ライターをしている主人公の「僕」が、とある猟奇殺人の犯人に取材のための面会に行った、その帰り道で立ち寄ったバーにて。

ウィスキーを出され、グラスに口をつける。液体を舌に乗せ、その甘い熱の広がりを感じた瞬間、すぐに飲み込む。僕の喉の我慢がきかなくなり、一気に仲間を招き入れたように。カウンターの向こうで、マスターの男が僕を見ている。禁酒者がそれをやめる瞬間を、この男はきっと多く見ている。
「覚悟は、・・・ある?」男の声が浮かぶ。覚悟? 僕は笑みを浮かべようとする。またウィスキーに口をつける。飢えた昆虫のように。アルコールで額や胸に熱がこもっていく。
 覚悟などいらない。僕にはもう、守るものがない。


・・・とまあ、こんな感じで、短い引用ですが、暑苦しくないのにぐんぐん引っ張りこまれるような静かな迫力がみなぎっているのを感じていただけたでしょうか。
正直、この文章を読んでいるだけで気持ちが良く、内容はミステリとしてのどんでん返しがあったりもするのですが、最後に驚く小説というよりは途中を楽しむ小説だと思います。スッキリ冷やした日本酒みたいに、どんどん飲めちゃう感じ。
もちろん、どんでん返し自体も意外性十分で面白かったです!

出版社より、猟奇殺人の犯人のカメラマンについての本を書くよう依頼されたライターの「僕」は事件について取材を重ねていく。やがて、犯人の姉と関係を持ってしまい、また犯人の心理を追うことにも限界を感じた「僕」は編集者にこの仕事から降ろしてほしいと告げる。編集者は怒りをあらわにするのだが、実は・・・

このように大筋だけ書くとストレートなミステリのようですが、「僕」の一人称や犯人の手紙、〇〇の手記、などなどさまざまなパーツが組み合わさっていて、しかも登場人物も【偏執狂カメラマン】【その姉・妖婦】【カリスマ人形師】などなど、実に多彩。ページ数も多くないので、文章の上手さもあって、ジェットコースターのようにあれよあれよと読めてしまいます。
『去年の冬、きみと別れ』という印象的なタイトルは、作中の登場人物の独白より。

 去年の冬、きみと別れ、僕は化け物になることに決めた。僕は僕であることをやめてしまった。彼らに復讐するために、僕はそこで、壊れてしまったんだよ。 

なるほどねー。そう思って見ると、このちょっと変わった表紙絵も、なんだか人間が人間であることをやめてしまった姿にも見えてきますね・・・。
ちなみに私はこの装丁も、非常に美しいと思っています。この表紙絵は色も綺麗ですが、女性のドレスのようでもあり、どことなくエロいようでもあり、怪物のようでもあるという不思議な絵です。

作者の中村文則は「土の中の子供」という作品で芥川賞を取っています。
この作品は昔読んだことがありますが、文章の静かな気配は変わらないのですがいかにも純文学で、あまり印象的とは思いませんでした。2010年、大江健三郎賞を取った「掏摸」で一躍人気作家になり、海外にも翻訳されて話題となりました。
「掏摸」も面白かったですよー!
この「去年の冬、きみと別れ」と同じく、一種のミステリというか犯罪小説ですが、作者の持ち味のひんやりと静かな世界観と、掏摸を生業とする草食系(w)青年の内面がピタッと合っていてね。掏摸のテクニックが妙に詳しく書いてあるのがまた、作品に厚みを与えていてね。主人公の言動がちょっとクサい(ぶっきら棒と見せかけて、子供に優しかったりする)のがまた、読んでて気持ち良くてね。
完全に純文学の作品よりも、こうしたちょっとミステリ、というかエンタテインメント要素があるほうが、作品に芯ができて書きやすいのかな、という気がします。

海外で高い評価を受けているという事ですが、やはり、村上春樹と同じように無国籍な感じや、生臭さがなくてどことなく抽象的な感じ、主人公がストイック(かつ、少々ナルシスティック)な感じなどなどが国境を超えて受け入れられやすいのでしょう。
この文体のクールさが翻訳でどこまで伝わるのかなあ・・・。
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