プロフィール

イザク

Author:イザク
好きな物・好きな人(順不同)

昔のSF。宇宙とかロボットとかそういうSFっぽいもの。
本一般。映画一般。特撮ヒーロー。仏像。友情モノ。
西尾維新先生。舞城王太郎先生。荒木飛呂彦先生。奥泉光先生。円城塔先生。津原泰水先生。山岸涼子先生。松本大洋先生。三上骨丸先生。白鵬様。食パンちゃん。

カテゴリ

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:


41TDiHrW+2L.jpg中村文則著:新潮文庫

お笑い芸人、ピースの又吉が小説「火花」で芥川賞を取り、本もベストセラーに。
それにあやかってこの夏、本屋さんでは「又吉が愛してやまない20冊」という新潮文庫のコーナーが出来ていました。そのラインナップが、
『戯作三昧・一塊の土』芥川龍之介
『R62号の発明・鉛の卵』安部公房
『山椒魚』井伏鱒二
『一千一秒物語』稲垣足穂
『白痴』坂口安吾
『痴人の愛』谷崎潤一郎
『ヴィヨンの妻』太宰治
『お伽草紙』太宰治
『最後の喫煙者―自選ドタバタ傑作集 1―』筒井康隆
『文鳥・夢十夜』夏目漱石
『李陵・山月記』中島敦
etc、という感じで、文学的というか古典的というか、教科書に載っていそうな本、誰でも(題名だけは)知ってる「ザ・名作」が多く、真っ当な本好きの人だなあ、という匂いのするセレクションだったのです。
(↑私はこの中では『R62号の発明』が好きw)

ところがその中に、
『遮光』中村文則
これが入っているのですよー!
中村文則は「掏摸」で話題となり「去年の冬、きみと別れ」(感想はこちら)でベストセラー作家の仲間入りをした人ですが、この「遮光」はそのずっと前、まだほとんど無名なころの地味な本なのに・・・?
でも、「掏摸」も「去年の冬~」も面白かったので、この「遮光」も読んでみたのですが・・・。

マジ面白かったのよー!
やっぱ又吉っていいセンスしてるんだなあ、と思わせてくれるのよー!
初期の作品だけに、エンタメっぽさやサービス精神の無い、純粋に文学に向かっていく気迫が感じられるのよー!

 カーテンを閉め、机の引き出しから瓶を取り出した。黒いビニール製の袋で覆われているのは、日光を避けるためだった。私は一日に一度はこのように瓶を取り出し、中身を確認した。深い意味はないが、これは私の習慣だった。今日も変化はなかった。

↑もう、この冒頭の文章からすでに、冷たい空気感とウッスラした狂気が漂っていませんか? 何てことはない文章なのに、一気に引き込まれるというか。
で、この「瓶」の中身というのが読んでいてなかなか出てこなくて、ちょっと苛々したりもする(笑)。ネタバレしたくないので書きませんが、ちょっと驚くようなモノが入っています。

主人公の「私」は、そんな瓶を肌身離さず持ち歩く、一見まともだけど内面に少々問題のある男子大学生。
こういうタイプを離人症というのかな? 自分の身に起こったことなのに、「嬉しい」とか「悲しい」とかの感情が湧かない。相手にどういう態度をとるべきか、何を話せばいいのかもわからない。
ただその場の雰囲気に応じてそれらしく振る舞っているうちに、だんだんとそんな気分になってくる。
例えば、女友達をナンパしてきた男たちに向かって、最初は「こういう時は追い払うものだ」と思って、棒を持って殴りかかり、殴っているうちにどこで止めたらいいのか分からなくなり、自分も疲れて止めたいと思っているのにいつまでも続けてしまい、周囲からドン引きされたりする。
「私」には友人・知人も何人もいるのですが、勘のするどい奴は「私」が真っ当じゃない事を見抜いています。

そんな、「狂気」とまでは言えない、誰しも多少は身に覚えのある感覚、しかし異常といっていいほどに普通とはかけはなれた感覚、そういったものが、「私」の一人称でずっとつづられていくのです。つまり、精神異常を精神異常者の内面から描写しています。
何てエキサイティングな!
想像ですがこういった、「自分が何を今感じるべきなのか分からない」というタイプの人間って、案外多いのではないでしょうか。
(西尾維新の「悲鳴伝」も、そういった普通の感情が分からない少年の話だった)
自分は狂っていない、自分は理性的だ、だけど周囲と合わせていくことが難しくて苦しい、そんな人たち、特に若い人たちは、この本を読んで「自分だけじゃなかった! 救われた」と感じる人もいるのではないかな。

そして、冒頭の「瓶」の中身にもかかわってくる事なのですが、この小説は「私」の恋愛を描いた小説でもあります。
「私」は結局、どんどん壊れていってしまうのですが、もしこの恋が幸せに成就していたのなら、まだ「私」はこちら側に残っていられたのではないか。
周囲との違和感を感じながらも、何とか普通の人間として最後まで振る舞っていけたのではないか。
そんなことも思わせる、切ない青春小説の趣きもあります。
あと、この作者は文章がひんやりヒタヒタとしていて気持ちがいいです。

比較的短くて、スイスイと読めてしまう小説なので、日常にありながら狂気に触れるという贅沢(?)を味わってみるのはいかがでしょうか? 
又吉の趣味に触れるという意味でも、興味深いものがあります。
関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://isaac936.blog.fc2.com/tb.php/1266-404cda72

 BLOG TOP