プロフィール

イザク

Author:イザク
好きな物・好きな人(順不同)

昔のSF。宇宙とかロボットとかそういうSFっぽいもの。
本一般。映画一般。特撮ヒーロー。仏像。友情モノ。
西尾維新先生。舞城王太郎先生。荒木飛呂彦先生。奥泉光先生。円城塔先生。津原泰水先生。山岸涼子先生。松本大洋先生。三上骨丸先生。白鵬様。食パンちゃん。

カテゴリ

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:


 あんた先週の話、知ってる?

 じゃ分かるだろ、オレが今どんな窮地に立たされてるのか。
 あいつらにウーロン茶なんて飲まされちゃって、しばらくは天に帰ることも出来ないし、それが上の方にバレてオレ、半年間の免停くらったんだよ。そもそも、無許可で地上に降りちゃったのがいけなかったんだけどね。でも本当にサクッと終わらせるつもりだったし、ちょっとした降下はいつもなら黙認されてるんだ。天使だって退屈するのさ。
 だけど地上の飲み物を飲んでしまってはそうも言ってらんないもんなあ。オレが戻れなきゃ、誰が小岩の空を守るんだ、って話になるだろ。
 幸い、オレの後輩が良く出来たやつで、仕事もばっちりこなしてくれるし、先輩、休暇だと思ってのんびりしてきてくださいよ、なんて空から声かけてきてくれるんで、まあそっちの方は安心なんだけどね。
 半年、ったって人間ベースの半年だから、オレたちにとってはまばたきする程度の時間だし。
 けど今、オレ、人間の身体だからね。
 これで半年ったら長いよ。その間、ちゃんと食事も休息もとらないと、人間のままで死んじゃうし。
 最低限、それなりに人間の世界で通用する、お金と寝場所を確保しないとなあ。

  そんな訳でオレは、小岩の町を歩いていた。
 上空からはいつも見下ろしてるから、どこにどんな店があるのかは良く知っている。
 人間化したときに選んだ黒い服を今も着ている。これも、新しく服を買って着替えないと、どんどん汗くさくなっちゃうんだよな。人間の身体の生理現象って、面倒くせえ。
 それよりさしせまった問題は、オレは今、腹をすかせてる、って事だ。
 ウーロン茶飲んで、オレの身体が完全に人間化してからもうけっこうな時間が経っている。これも人間の生理現象だ。腹がすくって、面倒くせえ。
 食べ物を手に入れるには金が要る。もちろん、服を買うにも。
 ところがオレは今、当然だがまったく金を持っていない。早く金を手に入れないといけない。天使が餓死だなんて、まったくシャレにならないよ。
 そこでオレは、駅を降りてすぐ左手にある、「地蔵通り」に向かった。
 金を手にする為には、仕事を探さなくてはならない。人間を襲って奪う、という手ももちろんあるけれど、さすがにオレ天使だからね。あんたたちの感覚で言うと、他人の家のペットの猫用の缶詰、奪って喰った、みたいな感じかな? そこまで追い詰められてないよオレ?
 ただ、仕事を探すのもそれなりに面倒でさ。人間たちの生活はいつも見ていたから良く知ってるけど、住所とか家族構成とか学歴とか、要するに過去をいろいろ聞かれるわけよ。ところがオレ、過去ないじゃん。「天使でした」って言えないしな。
 その点、地蔵通りはユルいんだ。過去を探られたくない奴も世の中にはいるわけでさ。面接でしっかりした所を見せれば、多少怪しい履歴書だって、ちゃんと雇ってくれる。もちろん最初のうちは安い日払いだけど、贅沢は言っていられない。
 
 地蔵通りを歩くうちに、一枚の看板が目に入った。
「ホストクラブ 堕天使」。
 オレのことかよ。気に入ったなあ、ここ。
 ホストクラブって、あれだろ、女の子の相手してやればいいとこだろ。オレ多分得意だし。
 オレはドアをくぐり、店長はいないかと尋ねる。
 三十分後には、オレは「堕天使」の見習いホストとして、今夜から店に出る契約をもらう。
 名前だけは決めておかないとマズイんで、とりあえす「園寺エル」って名乗った。
 エンジ・エル。そのまんまだけど、まあバレないだろ。

 *   *   *

 自分がこんなお店に通うようになるなんて、ちょっと前まで思ってなかった。

 あたしは中学も高校も、ずっと地味で背も低い、目立たない女子だった。女子の間にもグループがあって、華やかで遊び上手なグループはいつも目立っていて羨ましいとは思ったけど、じゃあ自分がそうやって髪を染めたりスカートを思い切り短くしたりしたいか、っていうと、やっぱり違うと思った。
 手芸部の仲のいい友達と、頑張って自分なりに精一杯のおしゃれをして、渋谷や原宿に出掛けることもあった。でも、何をしていいのか分からなくて、いつもお店のウィンドウを見てお茶を飲んで帰ってくるだけだった。一度だけ、ピアスをいっぱい付けた男の子のグループに声をかけられた事があって、怖くて友達と走って逃げてきたこともあった。
 男子と付き合いたいとも思っていた。でも実際には、いいなと思う男子を離れた所から見ているだけでもどきどきしたし、二人きりで会うなんて無理だと思ってた。チョコレートを渡すことだって、もちろんできなかった。一度だけ、名前を書かずにロッカーに入れておいたことはあったけど、本気じゃなかった。ただ自分が、バレンタインデーを楽しみたいだけだった。

 高校を卒業して、お父さんの知り合いの人がやってる地元の小さな会社に勤めることになった。
 会社の人はおじさんばかりだったけど、いい人たちだった。自分の娘と同じくらいだ、って言って、優しくしてくれる。あたしは恵まれているんだと思う。
 でもおじさん達が好きなのは、あたしより三歳年上の先輩の女子社員のリカさんだった。リカさんはあたしと違って、おじさん達と喋るのがうまい。冗談も言うし、文句も言う。取引先の人とも、すぐ仲良くなる。みんなにリカちゃん、リカちゃん、って呼ばれている。あたしは入社して一年経つけど、ずっと「小林さん」と呼ばれている。
 美人でもないし口下手なあたしは、ただ毎日、仕事を真面目にやっている。それだけしか、取り柄がない。
 家に帰って、編み物をしながら好きな音楽を聴いたり友達とメールのやりとりをしたり、飼っている猫と遊んだりする。友達は短大に行ったので、最近、あまり話が合わなくなってしまった。

 数日前に、リカさんに誘われて初めてホストクラブに行った。
 リカさんは派手好きで遊び上手だけど、こんな地味なあたしのこともちゃんと誘ってくれる。面倒見も良くて、いい人なんだ。
 リカさんの元カレの先輩がやっているお店だとかで、早い時間なら安く行けるよ、ユミちゃん(あたしの事だ)も、たまにはそういう所に行ってみたらいいよ、そう言いながら連れて行ってくれた。
 リカさんが時々誘ってくれるお店はどこもあたしには場違いだけど、あたし一人では絶対に行けない所ばかりだ。だから、居心地が悪い思いをすることもあるけれど、あたしはリカさんが誘ってくれるとちょっと嬉しい。

 ホストクラブ「堕天使」は、地蔵通りの出口の付近にあった。
 まだ外は少し明るくて、お店も開けたばかりであたしたちの他にはお客はいなかった。リカさんはお店の人たちとは顔なじみらしくて、みんなと挨拶して、この子、後輩だからよろしくね、とあたしを紹介してくれた。今日は安くしてよ、と頼むのも忘れなかった。
 リカさんはお客というより友達みたいな感じで、すぐにたくさんの男の人たちに囲まれて、楽しそうにおしゃべりを始めた。
 あたしの隣には、今日入ったばかりだという男の人が座った。

 それが、エルだった。

 エルはあまり喋らなかった。あたしも、初めて会った人とは何も喋れないから、しばらく二人で黙って座っていた。
 こんな所に来て、黙ったままでいのかなあ、ってあたしが心配になり始めたころ、エルが口を開いた。
「あんたみたいな子も、来るんだなあ、こういう店」
 あたしは何を言われたのか分からなくて、エルの顔を見た。
 エルはあたしの方を見ていたので、目が合った。あたしはあわてて、目を伏せた。エルの顔は、整った顔だった。目も睫毛も、長い髪も、真っ黒だった。
「こんな所に来るのは、遊び慣れた女ばっかしだと思ってたんだよオレ。あんた、そうじゃないよな。あのさ、言っといてやるけど、好奇心で来たんだったらもう来ない方がいいぜ? 結局、金取ることしか考えてないんだからさ、こういうとこは」
「あの、あたし、・・・」
「今日はサービスするけどさ、結局あんたみたいな遊び慣れてない子が一番危ないワケよ。初めて、男の人とちゃんと喋れた、一緒にお酒も飲んだ、って思ってフワーッてなっちゃって、なけなしの貯金全部はたいてさ。あんた真面目そうだし、あと何年かして化粧もちゃんと覚えたら真っ当な男だって寄ってくるよ。今日は相手すっけど、もう来るなよ」
 あたしは下を向いた。これって多分、ホストがお客さんに言う言葉じゃない。あたしが美人でもないし面白くもない女の子だから、この人はこんな事をいうんだろうか。
「あたし・・・来ないほうが良かったですか・・・」
 あたしはやっと、それだけ言った。
 エルは、身体ごとあたしの方に向き直った。あの黒い瞳が、まっすぐにあたしを見た。
「・・・そういうつもりで言ったんじゃない、悪かったな。オレは普段、人間の人生には干渉しないんだ。でもあんたはオレの初めてのお客だから、ちょっと言ってみたくなっただけだ。じゃあいいぜ、面白おかしい話をしようか。オレはドラマも見ないし音楽も聞かないし、流行りの話題は何も知らないけど、でもあんたに楽しんでもらうことはできると思うよ」

 そうは言ったけれど、エルはやっぱり、あまり自分からは話さなかった。
 あたしが、家のこととか会社のことを話すのを聞いて、相づちを打ってくれるだけだった。分かるよ、そういう事ってよくあるよな、と何度も言った。
 時々、飲み物を注文してくれたけど、自分ではほとんど飲んでいなかった。お酒、弱いの? とあたしが聞くと、地上のアルコールはどうも悪酔いするんだよね、と答えた。
 リカさんが、もう帰る時間だよユミちゃん、と言いに来た。その時気が付いた、男の人と二人きりでこんなに話をしたのは初めてだった。
 エルに、ありがとうと言った。エルは小声で、もう来るなよ、とまた言った。
 
 その夜、ベッドに入って目を閉じても、エルのあの黒い瞳が忘れられなかった。
 あたしは、エルのことが好きになっっている自分に気付いた。

 次の日、あたしは仕事が終わると貯金をおろして一人で「堕天使」に行った。
 エルを「指名」した。
 エルは他の女の人と話をしていたが、しばらくするとあたしの隣に来た。そして、もう来るなって言っただろ、と呟いた。
 分かっていた、この先いつまで経っても、エルとあたしが付き合ったり、恋人同士になったりすることは絶対にないってことくらい。逆に、もしそんな事になったりしたら、あたしはどうしていいか分からなくて困ってしまうだろう。
 でも、あたしはお金を持ってきた。お金が続くあいだは、あたしはエルと二人で話をすることができる。エルの整った横顔を、自分だけのものにして見つめていることができる。それだけで、あたしには十分だったし、その方が気持ちが楽だった。
 エルは不思議な話をしてくれた。
 死んでしまった人たちを慰め、安心させて別の世界に案内する天使たちの話。
 何百年も前の、アステカやインカの滅んでしまった帝国に暮らしてした子供たちを連れていった時の話。ヨーロッパで、アジアで、戦争で死んでいった若い兵隊たちの話。ここ、小岩にもあったという空襲の時の話。
 エルはそんな話を、つい昨日のことのようにあたしに向かって話した。途中で、あんた、こんな話はつまらないかな、と聞いてきたのであたしは首を振った。不思議な話は、エルの声に似合っていた。いつまで聞いていても、飽きなかった。

 それから何日か、あたしは「堕天使」に通った。
 あたしはお化粧を念入りにするようになった。服も、少し派手になった。会社のおじさんたちには、ユミちゃんと呼ばれるようになった。ユミちゃん、最近雰囲気変わったね、と言われるようになった。
「堕天使」では、毎日、エルを指名した。エルはそのたびに、もう来るな、と言った。
 自分でも、どうしたいのか分からなかった。ただ、お金の続く間は、エルの隣りに座っていたかった。
 
 貯金はすぐに底をついた。
「堕天使」に来られるのも、今日で最後だろう。
 クレジットでお金を借りてまで通い続けるほど、あたしも馬鹿ではなかった。自分が空しい夢を買っていることはよく分かっていた。
 あたしはエルに、さようならを言った。それから、貯金が溜まったらまた、会いにきてもいいかな、と聞いた。
 エルははっきりした声で、いい機会だ、もう二度と来るな、と言った。
 エルがそう言うだろうって事も、分かっていた。
 あたしはお金を払って店を出た。夢が終わってしまった寂しさに、涙があふれ出た。
 あたしは泣きながら、夜の地蔵通りを歩いた。酔ったサラリーマンや客引きの男の人に、何度も声を掛けられた。
 だから、後ろから声を掛けられた時も最初は気が付かなかった。それが、エルの声だという事に。

 あたしは振り向いた。エルがそこにいた。黒い髪と整った顔、この通りの騒がしい空気の中で、そこだけ別の空間みたいだった。
 エルはいきなり聞いてきた。
「あんたまさか・・・自殺とか、考えてないよな?」
 あたしは涙を拭いて、少し笑った。
「心配してくれるんだ・・・嬉しい。大丈夫だよ、最初から、そこまで本気じゃないもん」
 エルはほっとしたみたいだった。
「そうか、良かった・・・。あんた、様子がおかしかったから気になってさ。オレは普段は人間の人生に干渉しないんだけど、オレが原因になって、まだ生きるべき人間が死んでしまったりしたらマズイと思ったんだよ。・・・さっきのオレの言い方、少しキツすぎたかな。あんた、オレの初めての客だからどうも気になってさ。言わないでもいい事まで言っちまうんだけど、オレ、人間同士のものの言い方に慣れてない所があってさ。さっきのは取り消すよ。オレは多分、あと半年はあの店にいると思うから、金が溜まったらまた来てもいい。あんたにとって、それが励みになるんなら」
 エルはそう言ってあたしを軽く抱き寄せ、背中をぽんぽんと叩いた。そしてゆっくりと身体を離した。
「オレ、店に戻らないと。じゃあな、ユミちゃん」
 あたしはまた、泣きそうになっていた。あたしが何か言おうとして口を開いた時だった、その声が聞こえたのは。

「お前、何でこんなとこにいんだよ!」
 大声だったので振り向くと、そこに立っていたのは高校の時の同級生だった。苗字は何だったろう? みんながケンタ、ケンタと呼んでいたので、それしか覚えていない。
「お前だよお前、黒いやつ! あれ・・・? コバっち、こいつと知り合い?」
 コバっち、というのは同じクラスだった時にケンタくんがあたしに付けたあだ名だった。「小っちゃい小林だから、コバっち」という単純な理由で付いたあだ名だったが、あたしはずっと「小林さん」としか呼ばれることがなかったから、少し嬉しかったのを覚えている。 
 ケンタくんはづかづかと近寄ってくると、エルの肩を掴んでその身体をあたしから遠ざけた。そしてあたしを見て言った。
「なあコバっち、他人の趣味にケチつけるつもりはないけど、こいつは止めとけ。ロクな奴じゃないぞ」
 ロクな奴じゃないことくらい、知っている。エルはホストなんだから。ちゃんと分かってるんだから、ほっといてよ、ケンタくん!
「・・・分かってるよ。ほっといてよ、ケンタくん!」
 あたしがそう言うと、ケンタくんは少し驚いた顔になった。高校時代のあたしだったら、男子に向かってこんな口をきいたりしなかっただろう。
「コバっち・・・。あのさ、オレ、こいつのことで、多分お前が知らないこと、知ってんだよ。悪いことは言わないから、こいつだけは止めとけ」
 そのとき、エルが笑った。
「誰かと思えば、赤いやつか。あんた達、知り合いなんだな。丁度いいじゃないか、二人で付き合えよ」

 *   *   *

「真っ赤なハート型の頭の、全身タイツの奴が地蔵通りにいる」という目撃情報が戦隊本部に寄せられたのは、ついさっきの事だった。
 オレらは朝が早い分、夜寝るのも早い。
 今日も、もうそろそろ寝ようかな、という時刻だったけど、「真っ赤なハートの全身タイツ」って、それ、どう考えてもバレンタインデーの時のピンクのハート野郎の兄貴分だろ。夜出てくるのはちょっとパターンからはずれてるけど、地蔵通りならそれもアリかな。あいつら、人通りの多い時間を狙って来るわけだし。先週のヒョウタンも、酔っ払いを集めたくて夜の昭和通りに出てきたわけだしな。
 とりあえず、部屋着を脱いで急いで普段の服に着替え、三人で走ってここにたどり着き、手分けしてその真っ赤なハートを探すことにした矢先に、先週のあの黒い奴を見つけちゃったわけだ。しかも、高校の時一緒のクラスだった女子と一緒にいる所を。
 コバっちは就職したんだっけ? だからかな、なんか急に女っぽくなったな。見たとき最初、分かんなかったし。
 黒い奴は黒の上下を着ている。こいつ、もしかしてホストだったのか? だったらなおさら、コバっちが騙されてんのを見過ごすわけには行かねえよな。

 オレが二人の間に割って入ると、いきなり奴が笑い出して言った。
「丁度いいじゃないか、二人で付き合えよ」
 はあ? 何だよそのセリフ。
「この子は恋をしてみたいんだ。金で付き合えるオレだから安心して通ってきてたんだよ。次は、金で買えないお前の番だ。お前がちゃんと扱ってやれば、この子はもうホストクラブになんて通わなくても良くなる」
「な、何言ってんだよお前・・・?」
「エル、やめてよ、あたしはエルのこと、・・・きゃああっ!」
 黒い奴のせいでワケわかんなくなりかかった時、コバっちがいきなり悲鳴をあげた。見ると、いつものトカゲ頭の怪人がいつの間にかそこらじゅうにうじゃうじゃ出てきて、コバっちに襲い掛かろうとしていた。
 オレはとっさに変身して、トガゲを蹴り倒しコバっちを守った。
 げーらげらげら、といかにも下司な笑い声が響いてきたのにちょっと遅れて、青と黄色のスーツ姿のシュートとハルが走ってきた。
「ここか、ケンタ!」
「あ、その人、先週のブラックの人ですね!」

 二人の声はげーらげらげら、という笑い声にかき消された。
 真っ赤なハートの頭、真っ赤な全身タイツの野郎があらわれた。
「ホワイトデーも終わって、甘酸っぱい恋の季節は終了ラブ。これからは、大人の恋愛を楽しむラブね。俺様はABC48。手を握っただけでドギマギしてる坊ちゃん嬢ちゃんに、恋のABCを教えてやるラブ」
「おっと、貴様どんな術を使うか知らねえけど、それ以上は言わせないぜ。オレたち良い子の味方だかんな、NGワードってのがあんだよ。どうせ『ラブ注入』とか言って、子供には見せらんないようなしょうもない術かけんだろ。発動する前に終わらせてもらうぜ、悪く思うなよ!」
 オレがそう言って身構えると、黒い奴がさっと手を出してオレを止めた。
 黒い奴は、なぜか暗い空を見上げたまま、一人でブツブツ呟いている。フラグ立つ前に処理する、誰も呼ばなくていい、心配すんな、そう言っているみたいだ。一体、誰に言ってるんだよ?
「話はついた。兄さんたち、今夜はオレに任せなよ。すぐ済む」
 空との会話はすぐに終わり、黒い奴は片手でオレの動きを止めたまま、もう片方の手で、あの漆黒のスーツに変身した。

 そっからの奴の動きは凄かった。黒い稲妻が地上を走っているみたいだった。トカゲどもとハート怪人、全部合わせて端からなぎ倒してしまった。最後にハート怪人を空中高く吹っ飛ばし、自分もジャンプして空中ですさまじい連打をあびせ、とどめを刺した。
 本当に、ハートのやつ可哀想に、術を使う暇もなかった。
 ハート怪人の身体は空中で爆発し、オレたちの所には黒い燃えかすが少し落ちてきただけだった。

 黒いスーツは地上に降りてきた。
「こんな人ごみの中で爆発されたら、巻き添え喰って死ぬ奴が出ないとも限らないしな」
 そう言いながら、変身を解いた。
「さて、さっきの続きだよ。あんた、この子と付き合う気はないか?」

 オレは正直、こいつの強さに圧倒されてて、声も出なかった。
 すげえ。やっぱこいつ、すげえ。
 オレたちの味方になってくれたらどんなにいいか。
 いや、でも今日は怪人倒してくれたんだっけ。どっちなんだよ。
 オレ達三人は、のろのろと変身を解いた。まったく戦わずに変身を解くのは悔しいものだった。

「あんた達の言葉でいうと、情が移る、ってのかな。人間の身体に入ってるとだんだん感情も人間に近くなってくんだよ。オレ、この子にちょっと情が移りかけてんだよな。だからお前みたいな単純な裏表なさそうな奴が相手だったら安心すんだよ」
 何だよその勝手なセリフ。
 やっぱこいつ、おかしいよ。敵とか味方とかじゃねえ、上だ、そう、上から目線なんだ!
「お前さあ、夜だけだけど、強いのは認めるよ? 怪人倒してくれて、怪我人出ないように気配りまでしてもらって、感謝もしてる。でも、それとこれと、話別だし。コバっちの気持ちも考えてやれよ・・・」
 オレがそう言うと、黒い奴ははっとしたような顔になった。
「そうかユミちゃんが自分で感じてる気持ちかあ・・・。どうなの、ユミちゃん?」
 そう言ってコバっちの方を向く。
 コバっちは黒い奴がさっきスーツに変身して鬼みたいに強かったのを見て、口を開けて驚いた顔のままだ。
「あの、あたし・・・。ねえエル。エルって本当は、宇宙から来た人だったの? さっきの黒いのが、エルの本当の姿なの?」
 うわー、コバっち「戦隊」って知らないんだ・・・。
 女の子だとたまにいるんだよな、知らないやつ。説明が難しいぞ?
「オレの正体って、人間に喋っちゃいけない決まりがあんだよ。だからユミちゃん、そう思っててよ。でさ、次は現実の男に目を向ける番なんだよ。手始めにこの赤い奴なんてどう、ってオレは言ってるわけでさ・・・」
「で、でもさっき、ケンタくんも赤い宇宙人だったよ?」
「いやコバっち、そのへん、後で説明すっから! 宇宙人じゃないからオレら! ・・・多分、この黒い奴も」
「・・・マズイな。これ以上話してると、オレの正体バレちまいそうだ。今回、ちょっと人間の人生に介入し過ぎたみたいだな、オレらしくもなく。もう店に戻るよユミちゃん、半年の間に、またどっかで会うかもな。一年経ったって、オレはあんたを遠くから見ているよ」
 黒い奴はそう言い残すと、コバっちに手を振ってあっさりと背中を向け、そのまま歩いて行ってしまった。
 後にはオレとコバっち、それにシュートとハルが残された。

「相変わらず、何だか痛いキャラの人でしたね・・・」
「ああ。だけど強いな、ケタ外れだ。地蔵通りでホストやってたのか・・・」
「やっぱりジゾーブラック、ですね」
 シュートとハルがひそひそ話をしている。オレとコバっちを二人だけにしておこうと気を使っている。 

 コバっちには声をかけにくかった。でも、聞いておかなければいけない。
「あのさ、・・・コバっちはあいつのこと、好きなの? また、あいつの店、行くつもりなのかな?」
 コバっちはオレのほうに向きなおった。小っちゃなコバっちが、正面からオレの顔を見上げた。コバっちの顔は、笑っていた。
「ケンタくん。あたし、やっと分かったよ。エルは一つも、あたしに嘘をついていなかったんだ。園寺エル、って、名前のそのまんまだったんだよ!」
 そう言ってコバっちは、いかにも可笑しそうに声を出して笑った。でも、笑いながら涙を流していた。
「エルは最後に、キューピッドの役もしようとしてたんだね。さすが堕天使、だよね!」
 コバっちの言葉の意味は分からなかったけど、黒い奴に本気で惚れてたってことは分かった。そして、奴のことをあきらめようとしている事も。
「なあコバっち・・・、もうあいつの店、行く気ないよな・・・? あのさ付き合うとかは無理でも、お前が寂しかったらオレいつだって相手してやっから。だからもうあいつの事考えるのよせよ、な?」
「優しいねケンタくん。宇宙人なのに」
「だからそれ違うって! とにかく、あいつじゃなくたって、お前がホストなんかに引っかかってるの見ちゃったら、放っておけねえだろ。オレさ、宇宙人じゃなくて戦隊っつのやってんだよ。だから、急に呼び出しが来たり、予定狂っちゃったりすること多いかもしんないけど、でもホラ、花火大会とかクリスマスとか、あとお前の誕生日とかそういう日はさ、他の奴との予定入れないで空けとくからさ、だからもうあいつの事は忘れろ。いいな?」
「ケンタくん、いいの・・・? あたしなんかの為にクリスマス空けていいの? あたしは可愛くもないし男の人と何話していいのかもわかんないし・・・」
「やめろよそういう事言うの。お前はかわいいよ。なんつーかな、・・・雪見だいふくの箱入りの小っちゃいやつみてえ」
「なに、それ・・・」
「なんか白くてちんまりしてて触ったらふかふかしてそうでさ・・・変かな?」
「変だよ・・・」
「まあいいよ。とにかく、お前が嫌じゃなかったら、そういう事にしようぜ、な? オレも花火大会に連れてく彼女、キープできたら嬉しいし。浴衣着てきてくれたらもっと嬉しいし」
「ほんとに? あたしケンタくんのこと、信じるよ? エルが勧めてくれた人なんだから、きっとすごくいい人なんだと思うし」
「だからさあ、もうあいつのこと考えるの、やめろって」
 オレがそう言うとコバっちは下を向いて、小さな声で何かを呟いた。
「でもねケンタくん。天使があたしにアドバイスをくれたの。だからあたしは信じるよ」
 そう聞こえたけど、意味がわかんないし、気のせいだったのかもしれない。
 
 とにかくこの日、オレには彼女ができた。 

*   *   * 

 やれやれ。
 人間の世界、面倒くせえなホント。
 人間の生理現象も面倒だけど、人間の感情のほうがもっと面倒だってこと、忘れてたよ。

 あの子、この先どうなるかな。
 あの赤い奴に押し付けちゃったけど。まああいつは、馬鹿っぽいけど悪い奴じゃなさそうだし。
 あの子に今必要なのは、彼氏じゃなくて自信なんだよな。赤い奴があの子を粗末に扱わないで、きちんと付き合ってやれば、少しずつ自信も育ってくるだろ。そうしたら、赤い奴との付き合いを続けるか、他の男を好きになるか、それとも男の事なんか考えずに自分のやりたい事をやるか、自分で考えられるようになるだろ。
 ああいう子は人間の世界にいっぱいいるんだよな、オレずっと見てきたし。

 気になるけど、これ以上、人間に情を移したら、オレ天に帰れなくなるからな。
 半年間、非情なホストで行くっきゃないよ・・・。


---------------------------------------------
今までの小岩戦隊、レッド中心の話が少ないと思い、
「よーし今回は、レッド主役で甘く切ないラブストーリーだ!」
という感じで書き始めたのですが・・・ごらんの通りです・・・。
ブラックの一人称がすごく扱いやすくて、スラスラ書けるんですが書いてるうちにどんどん変な方に行っちゃうんですよ。
もし自分が男だったら心の声はブラックみたいな口調なのかもしれない・・・。

レッドが恋人を失う話にするつもりだったのが、いつのまにか彼女を作る話になってしまいました(苦笑)
あれですね、お馬鹿キャラは不幸にしづらいですね。自分で書いてても、反応とかが想像できないし。

地蔵通りには本当にホストクラブが何件かあって(不勉強なので行ったことがない)、入れ替わりがけっこうあるので本当に「堕天使」っていう店もあったかもしんない。もちろん、まったく無関係です!
早朝、小岩駅に向かう為に地蔵通りを通ったりすると、オール明けのホストとおぼしき若い男の子が、女の子と一緒に街角で白っ茶けた感じでボーッと立っているのを良く見かけます。
ホストも大変そうだね、お疲れ様、って感じです。
 
関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://isaac936.blog.fc2.com/tb.php/138-61215f75

 BLOG TOP