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イザク

Author:イザク
好きな物・好きな人(順不同)

昔のSF。宇宙とかロボットとかそういうSFっぽいもの。
本一般。映画一般。特撮ヒーロー。仏像。友情モノ。
西尾維新先生。舞城王太郎先生。荒木飛呂彦先生。奥泉光先生。円城塔先生。津原泰水先生。山岸涼子先生。松本大洋先生。三上骨丸先生。白鵬様。食パンちゃん。

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 南小岩の三つの商店街が、お正月の「謹賀新年」の垂れ幕や玉飾りをはずして、ピンクとチョコレート色の「バレンタイン・フェア」の飾りつけに衣替えしようとしているこの時期、まだ薄暗い早朝。

 小岩南口商店街組合委員会戦隊分室の二階では、フラワーレッドこと鈴木健太(ケンタ)が、目覚まし時計の音に起こされた。
 寒い。そのはずだ、窓が開けっぱなしになっていた。
 ああ、ゆうべ、夜中過ぎに何とか流星群が見られるってハルが言うから、窓開けたまま寝ちゃったんだ・・・。
 蚊が入る季節でもないがとにかく寒いので窓を閉め、パジャマのままで頭をぼりぼり掻きながら階下におりていくと、分室室長の松戸真樹子(マキコ)が、ダイニングのテーブルの上に朝食を並べていた。
「おはようケンタ。今朝も冷えるわね」
 そう言うマキコの顔は今日も朝からばっちりフルメイクで、ケンタは、オバサンって大変だなー、と思う。
 
 ケンタがこの分室で寝起きするようになってから、そろそろ一週間が経つ。
 未来からやってくる悪の組織、ダークグリードの襲来に備えるため、ケンタと他の二人の戦隊隊員は、基本的にこの分室で集団生活を送っているのだ。ベッドと机だけの小さな部屋だが、それぞれに自室が与えられている。

 今日の朝食ははケンタの好きな和食だったので、あ、納豆だ、オレ納豆好きなんッスよね、などと言いながら椅子に座ろうとすると、マキコがぴしゃりと、顔を洗ってきなさい、と言う。
 なんかマキコさんって、ものの言い方がオフクロに似てるよなー、歳も同じくらいなんじゃね? などと思いながら顔を洗い髪を適当にブラシで倒し、ダイニングに戻ると他の三人はもうテーブルについていたのでケンタはあくびをしながら自分の席についた。
 皆でいただきますを言ってから食事を始めたが、なんとなく今朝はみんな口数が少ない。
「・・・なんか今日、静かッスね」
 思ったことは、すぐ口に出してしまう性分である。
「なんかあったんスか?」
「なんかあった、じゃないだろう。この間のワニの騒ぎから、今日でちょうど一週間だ。そろそろダークグリードが襲ってくる頃合いだ」
 箸を置いて、昭和ブルーこと田中秀人(シュート)が答えた。青い服のこの男は、いつも同じ、落ち着いた口調である。
「僕たち、あれから一週間でけっこう鍛えたし武器の扱いもうまくなったと思いますけどね・・・。でも緊張しますよ。ケンタさん、忘れてたなんて凄いな。僕、なんか羨ましいですよ」
 僕なんて三日くらい前から、もうドキドキですよう、と言うこの、くせ毛だか寝癖だか分からない頭をした男は、サンイエローこと佐藤晴臣(ハル)。戦隊ものをはじめ、仮面ライダー、ウルトラマン等、特撮ヒーローをこよなく愛する男である。
「まあ、未来史を見るとだいたい一週間ごとに来てるようだ、という程度じゃからの。必ずしも今日来ると決まったわけではないわい」
 そう言ってホッホッホ、と笑うのは、壁にかかったモニター画面の中の老人の顔、小岩戦隊の産みの親ともいうべき、松戸康太郎博士である。この老人、松戸真樹子の父親だがすでに肉体はなく、自分のデータをすべてコンピュータ内に移してしまっている。ちゃんと会話もするし今でも天才的な発明家ではあるのだが、もともと変わり者なのかコンピュータの再現能力に限界があるのか、ケンタには「変人博士」としか思えない。更にマキコが「パパって天才!」などとはしゃいだ声で言ったりすると、さすがのケンタも、自分、この人たちに運命握られてるけど、良いのかなあ、という気分になってくるのである。

「ああそうだったッスね。今日あたり、来そうッスね」
 ケンタはそう言って、また大きなあくびをした。
「緊張感のかけらもないなお前は」
「いやなんか、ゆうべ変な夢見ちゃって・・・ファックション!」
「どうしたのケンタ、風邪?」
「いや違うッス、ゆうべ窓開けたまま寝ちゃったから、部屋冷え切ってて、急に暖ったかいとこ来たせいか鼻がムズムズして」
「それで変な夢を見たんだろう。南極で凍える夢とか」
「いや、なんか真っ黒いデカい板が立ってて、みんなでそれに触る夢」
「えっ、それ、モノリスじゃないですか!?」
「そのあと、その真っ黒い板にスーッってついていく夢」
「それ凄いですよケンタさん、モノリスの夢ですよ」
 シュートがプッっと笑った。
「そりゃあいい。お前もついに、サルからヒトに進化するわけだ」
 確かにケンタは勉強が苦手で小学校の時から、好きなのは給食と体育の時間、というタイプではあったが、この一週間の共同生活の間に、シュートに馬鹿にされる回数がどんどん増えている気がする。というか、シュートは基本的に他人を見下した物言いをする。嫌な奴だ、とケンタは思う。
「違いますよ、超人類に進化するんですよお。いいなあ」
 ハルが真剣に言う。ハルの「いいなあポイント」「うらやましいポイント」がどこにあるのか、一週間たってもケンタには全くの謎である。
「何なんッスかモノリスって」
「あのね僕、『ハル』って、自分のハンドルネームにもしてるんだけど、『2001年宇宙の旅』っていう映画に出てくる人口知能の名前なんですよ、それでね、・・・」
 ハルが嬉々として話し出した。こいつは、一度こうなると話が長い。
「モノリスというのは、人類をサルからヒトへ、ヒトから超人類へと進化させる謎の黒い板のことだ」
 ハルの話を断ち切るようにシュートが言った。こういう時、シュートの話は短くて分かりやすい。
「モノリスで思い出した・・・。昨日、買い物に行ったら街中でで学生らしいのが何人かで『SFっぽい夢を見た』とか、『黒い板になった夢を見た』っていう話をしていたの。そうしたら、その場にいた学生の半分近くが『オレも見た』『オレも見た』って言い始めて・・・。その時は気にも留めなかったけど、あれも、モノリスの夢だったのかな」
 マキコが口をはさんだ。それにハルが反応する。
「どういう事でしょう、何人もの人がいっせいに同じ夢を・・・。まさか本当に、人類って進化するんじゃ?」
「そんなはずあるかよ。あれは、そもそも映画だろ」
 シュートが一蹴した。
「そうよ。確かに、ちょっと気になることではあるけど。夢の話よりも、今日のスケジュールをこなすことを考えなさい。さて、食事が済んだらまず精神統一のための座禅、それからランニングと筋トレと、本日の格闘技は柔道の予定。講道館から先生をお呼びしています。まずは基本の、受け身をみっちりやってもらいましょう。それが終わってまだ体力が残っていたら、自由に出歩いてよろしい。以上」

 ハードな訓練が終わると、もう午後も遅い時間である。
 小岩の各地に設置されたモニター用の機器は、まだ何の異変も捉えていない。今日はもうダークグリードの襲撃は、ないのかも知れない。
 ケンタはシャワーで汗を流したあと、駅前のほうにぶらっと出てみることにした。小岩の町を出るのは禁じられているが、そのへんをうろつくだけでも、誰か友達に会うかもしれないし、本屋で雑誌の立ち読みをしてもいい。昔から、家でじっとしているのは苦手である。
 マキコに、行ってきまーす、と声をかけ、スニーカーをつっかけて玄関から出た。
 残されたシュートとハルは、まだぐったりしたままでそれを見送った。
「凄いですよねケンタさん、あの体力・・・羨ましい」
「バカは風邪をひかないというが・・・バカは頑丈、ということか。羨ましいというより、呆れるな」
 首にタオルを巻いたまま、ぼそぼそと二人が交わすそんな会話は、もちろんケンタの耳には届かない。
 マキコの作った「ヒーロー速成プログラム」の過酷さは、三人の想像をはるかに超えるものだったのだが、初日にあれだけ自分たちの覚悟を強調した以上、そう簡単に音をあげるわけにもいかない。ケンタ以外の二人はこの一週間、悲壮なまでの痩せ我慢を続けているのであった。
 
 ケンタは鼻歌まじりに駅へと向かう。
 駅前は買い物中の主婦と、帰りの早い学生が少しいる程度。ケンタの目は、自然と広場の中央に立つ、あるものに引き付けられた。
 バス待合所と、タクシープールの間に設けられた狭い花壇に、昨日まではなかったものが立っていた。
 真っ黒くて巨大なカマボコ板。そう、朝、シュートやハルが言っていた、「モノリス」だ。
 モノリスをひとめ見ると、ケンタは、それに触りたいという衝動を抑えきれなくなった。良く見ると、モノリスの周りには、何人もの人が群がっていて、モノリスを触っては恍惚の表情を浮かべている。
 ケンタは横断歩道を走って横切ると、モノリスの、黒いなめらかな表面に、その手を触れた・・・。

 モニター画面の異変に気づいたのは、松戸博士である。
「駅前で何か騒ぎが起きているようじゃ。ダークグリードの襲撃ではないようじゃが・・・」
 マキコとシュート、ハルがいっせいに画面に注目した。いつもならあまり人が集まらない広場中央のバス待合所のあたりに人垣ができ、次々と人が集まって、周りを囲む道路にまではみだしている。そのせいでバスやタクシーも通行がままならず、広場全体に混乱が広がっているようだ。
「何かを中心に人が集まっているように見えるが・・・あっ、あれは、モノリスじゃないか!?」
 確かに、わらわらと集まってくる人の群れの中心に、黒い板がそそり立っていた。人々は、なんとかその板に触ろうとして互いに押しのけあい、騒ぎを大きくしていた。
「ほんとだ・・・。いつからあんな所に? あっ、あそこにいるの、ケンタさんですよ!」
 モニターの画面には、モノリスに近づこうともみ合う人々の中の、ケンタの顔がはっきりと映っていた。
「何やってんだあのバカ・・・。例の夢の話と関係があるのか?」
「シュート、ハル! これは異常事態だわ、多分、ダークグリードがらみの。すぐ、駅前に行って!」
 二人はダッシュで部屋を飛び出した・・・はずが、実際は、イテテテなどと言いながら、椅子から立ち上がるのも大変そうである。
「何やってるの。早く行きなさい!」
「マキコさん、・・・受け身をみっちりやりすぎて、身体じゅうパンパンですよう」
「ハードスケジュールもいいが、ちょっとは加減てものを考えろよ。いざという時動けなくしてどうするんだ」
「あーもうゴメン! そのことは後で考え直すから。とにかく、早く!」
 文句を言いながらも精一杯の速さで、二人はモノリスとケンタの待つ駅前へと向かった。
 
「うわあ・・・さっきより人が増えてますね」
「あのバカ、あんな所で・・・嬉しそうな顔しやがって」
 人だかりを遠巻きにして眺める二人。
「どうしたものかな。今のところ、特に危険なこともなさそうだが。ほっとくわけにもいかないだろうしな」
「シュートさん、あれ、モノリスじゃないですよ。よく見ると、質感も比率も違います」
「偽物か」
「そう。ニセモノリス」
 ハルは自分で言って自分でクスッと笑った。安上がりな男である。
 
 その時。

 シュートとハルの目には、突然の轟音とともに、その偽モノリスが膨れ上がったかに見えた。
 いや、よく見ると、黒い板が無数の粒子に分解して、急に巻き起こった突風とともに、黒いかたまりとなって空中に浮かびあがったのだ。黒い雲は大量発生した害虫の群れのような、自らの意思を感じさせる動きで上空に渦を巻き、前触れもなく四方に飛び散った。
「やばいぞこれは。チェンジ!」
「チェンジ!」
 二人がスーツを身にまとうのにわずか一瞬だけ遅れて、米粒くらいの大きさの、四角い黒い粒が飛んできてばちばちと音を立ててマスクに当たった。
「何だこの黒い粒は! 顔面を狙ってきたぞ?」
「ああ、シュートさん、見てください。あの粒、人の耳や鼻の孔に入り込んでる!」
 ハルの言う通り、黒い粒子は人々の顔面を攻撃しているのではなく、顔面の孔を狙っているのだった。
「どういう事なんだ。あの粒は一体、・・・」
 シュートが考えをまとめかねていると、広場中にちらばった黒い粒が再び一か所に集まり始め、みるみるうちに二本足の、胴体の丸い生き物の形になった。大怪獣ガメラにやや似ているが、よく見ると身体の輪郭がドット絵のようにカクカクしている。さっきの四角い粒が集まって身体を形作っているのだ。
「グアーハッハッハ! オレ様はポリゴンカメゴン。オレ様の身体の一部を体内に取り込んだものは、オレ様のしもべとなるゴン」
「ワニの次はカメか。安易な名前じゃないか。そういや、こないだのワニの名前、何だったんだろうな。・・・まあいい、おいカメ、好き勝手なことを言うのは、おれたち小岩戦隊サンフラ和ーを倒してからにしな!」
 シュートが声を張り上げて挑発した。
 ポリゴンカメゴンは二人のほうに向きなおった。
「グアッハッハ、小岩戦隊ども、威勢がいいゴンね。だが、お前らを倒すのはオレ様ではないゴン。さあみんな、あの青いのと黄色いのを、やってしまうゴン!」
 駅前広場いっぱいに集まった人々が、いっせいに二人のほうを振り返った。


「うわっ!」
「こ、怖い!」
 人々の目は、焦点が合わずまったく生気がなかった。それが百人以上も、ぞろり、ぞろりと歩いて近寄ってくるさまは、恐怖映画のゾンビの群れそのものだ。
「ど、どうしましょう!? この人たちと戦うわけにはいきませんよ?」
 近くまで来たものたちが、うつろな目をしたまま、二人に掴みかかってきた。振り払っても振り払っても、次々に集まってきてきりがない。
「くそっ、飛ぶぞ、ハル!」
 掛け声とともに二人はジャンプして、人垣に囲まれて止まったままのバスの上に着地した。ゾンビ化した人々は登る手がかりがなく、下で右往左往している。
「あいたた・・・。スーツのおかげで動けることは動けるけど、筋肉痛は治らないんですね」
「嫌だな・・・。おれたち、スーツを脱いだらきっと、一ミリも動けないぞ」
「それにしても、ここから降りられなくなってしまいましたね・・・」
「あの人々は、あの黒い粒を身体に取り込んだ人たちだ。見ろよカメのやつ、甲羅の一部が欠けたようになっている。きっとあの部分が細かく分解して、ヒトの身体に入ってその人を操っているんだ」
「多分、あの黒いポリゴンが一種の磁気を帯びているんですよ。この人たち、黒い板を触ってうっとりしてたし。『板に引き寄せられる』とか『板について行く』って夢の話も、何らかの形で昨日までに黒い粒を取り込んだ人たちの夢だと思うと納得できます。きっと今も、親ガメをしたう子ガメのような心境で・・・」
「親ガメこけたら皆元通り、というわけか。よし、ガンモードでさっさと終わらせよう」
 二人の会話をまたもポリゴンカメゴンの高笑いがさえぎった
「グアッハッハ! そんな所に登ってやり過ごしたつもりゴンか? お前ら、大事なことを忘れてるゴン」
 そう言ってカメは後ろを振り返って言った。
「さあ、さっさと変身して、こいつらをやっつけるゴン!」
「了解ッス」
 短く答えたのは、ケンタだった。一瞬ののち、真っ赤なスーツにチェンジしたケンタは、バスの上を指さして言った。
「あの二人でいいッスね?」

「やばい・・・。マジで、あいつの事忘れてた」
 シュートがつぶやくのと同時に、ケンタは助走もつけずに軽くジャンプすると、止まっている乗用車の上をポンポンと飛んで、二人の目の前に着地した。飛んでいる最中にガンモードを起動したらしく、右手にはレーザーガンを握っている。
 ケンタはその銃口を、ぴたりとシュートのマスクに向けた。
「短いつきあいだったスね」

 ハルはとっさに足を上げてシュートの身体を蹴った。バスの上から青いスーツが転がり落ちるのにわずかに遅れ、自分も反動で反対側に落ちていった。それと同時に、白く光るレーザービームが二人がいた空間を切り裂いていった。
「シュートさん! 大丈夫ですか?」
「あ、ああ・・・助かった、サンキュー、ハル。あいつ本気だったぞ!?」
「シュートさんの方が強敵だと判断して、先に狙ったんでしょうね・・・。うわあ、気持ち悪い!」
 ゾンビたちにまとわりつかれ、ハルが悲鳴を上げた。と、その足首を誰かが掴み、地面に引きずり倒した。
「わああっ!」
 ハルの身体はそのまま、バスの下へと引きずられていった。
「静かに! ハル、おれだよ」
「シュートさん! あれ? 変身、解いちゃったんですか?」
「バスの上からケンタが狙っていた。青いスーツじゃ目立ちすぎる。お前も、変身を解いておけ。人ごみにまぎれてしまえば、多分撃ってこないだろう」
「ケンタさんにとってこの人たちは仲間ですからね。同士討ちは避けるでしょう。確かに、この方がいい」
 そう言ってハルも、変身を解除する。
「さて、どうする。ここも、長くはいられないぞ」
「まず、ケンタさんを何とかしないと。ええと、・・・僕が外に出て気を引きますから、シュートさん、後ろから思いっきりケンタさんの頭を殴ってください」
「殴る?」
「蹴ったほうがいいかな。とにかく、後ろから、頭を」
「・・・そうか。よし、それで行こう。任せた、ハル!」
 二人は普段着の姿のままで、左右に分かれてバスの下から這い出て、そのまま姿勢を低くして人ごみの中を移動した。ゾンビたちも、スーツでなければ襲ってこない。バスの上では、隠れたって無駄ッスよ、とケンタが声を上げている。
「イテテテ・・・。この姿勢、つらいなあ」 
 中腰のまま、精一杯の速さでケンタから距離をとったハルは再び黄色いスーツ姿にチェンジすると、手近なバスの上に飛び上がった。この時刻、他にも何台かのバスが駅前広場に止まったまま、人の群れに道を遮られて立ち往生している。

「ケンタさん! 僕ですよ、目をさましてくださいよ!」
 ケンタの顔がハルの方を向いて、黄色いスーツを視認するのと、右手を上げてレーザーガンを発射するのと、ほとんど同時。
 半ば予期していたハルはそれをかわし、バス停の屋根に移動。
「ケンタさんってば!」
 狙いをつけられないよう、小さくジャンプしながら少しずつ移動してゆく。視界の隅では、青いスーツが駅正面の銀行の屋上に姿を現したのを確認している。その、ちょうど真下にくる位置まで来て、ハルは立ち止った。
「僕がわからないんですか?」
「分かってるから、撃ってるんスよ」
 ケンタはそう言って、またもほとんど狙いを定めない早撃ちをハルに見舞った。
 スーツが機能しているかぎり、そんな撃ち方でも狙いはほぼ正確。だから、ハルも自分のスーツの敏捷性に頼るしかない。ケンタの、引き金にかけた指に力が入るのを見極め、ぎりぎりのタイミングで身体を倒す。
「ぐああっ!」
 ハルは演技の悲鳴を上げ、バスの屋根からころがり落ちる。ケンタから見て、バスの影になる方向に。
「やった、かな?」
 ケンタはつぶやき、ガンを握ったままジャンプして、ハルが立っていた場所に着地し、バスの上から地面を覗き込んだ。
 ビルの屋上にいるシュートに背中を向け、後頭部をさらす形で。
「サンキュー、ハル」
 ほとんど水平な姿勢からシュートは壁面を蹴り、落下のスピードを更に早めつつ空中で身をひねり、赤いスーツの無防備な後頭部に強烈な蹴りを入れた。
「がっ・・・っ!!」
 衝撃に耐えきれず、かがみこんだ姿勢のまま地面に転落する、赤いスーツ。
 その身体を、下で待機していたハルが抱き起し、かかえたままでシュートの立っているバスの屋根へとジャンプして戻る。
 赤、青、黄色の三色のスーツが、バスの上で揃った。

「ケンタさん! 大丈夫ですか!?」
「その心配は後だ。まずは、これを・・・」
 シュートはケンタの赤いマスクをつかみ、すっぽり抜き取った。
「う・・・ううん・・・」
 低いうめき声を上げるケンタの顔をちらりと見てから、シュートは手に持ったマスクを軽く振った。
 コツ、と微かな音がして、黒い小さな粒が銀色のバスの屋根の上に落ちた。

 シュートとハルは溜めていた息を吐き出した。この作戦が成功する保証はまったくなかったので、いつでもケンタから逃げられるように身体を緊張させていたのだ。
「やった! うまくいきましたね、シュートさん!」
「ああ、もう大丈夫だ」
 そう言って、手の甲で額の汗をぬぐう仕草を見せるシュート。スーツを着ていても、こういった動作はつい出てしまう。
 それからかがんでケンタの肩をそっとゆすり、目を閉じたままの顔を、手のひらでピタピタと叩いた。
「おい、大丈夫か? おれが、分かるか?」
「ケンタさん、しっかりしてくださいよ・・・。頑丈なんだから、平気ですよね、これくらい?」
「しっかりしろ! おい!」
 シュートの手の力がだんだん強くなった。すると、
「うーん・・・うるさいッスよ・・・。あ、いってえ・・・」
 寝起きの子供のような声をあげて、ケンタが目を開いた。
「痛ってえ・・・。あ、どうしたんだろ、こんなとこにでけえコブできてる!」
 後頭部をさすりながら身体を起こし、驚いた声を上げるケンタ。
「やべえ鼻血出てる? あれ、オレ、変身してんじゃん!」
 自分の両手を見て初めて、自分がスーツ姿なことに気付く。
「ってか三人ともスーツ? え、なに、今ってもしかして・・・」
「とりあえず大丈夫そうだな。良かった」
「ケンタさん、ちょっといろいろ、後で謝らなくちゃいけないんだけど、とりあえず今は、まずこれ被って」
 ハルがマスクをケンタに手渡した。
「どういう状況かわからないだろうが、とにかく今は、おれたちの言う通りにしてくれ。いいな?」
「あ、ああ」
 素直に頷くケンタ。
「よし。これでやっと、サンフラ和ーが揃ったぞ」
「とっとと終わらせましょう。この人たちも、早く元に戻さないと」

「そこのバカを操ればサンフラ和ーを同士討ちさせられると思ったのに・・・。まあいいゴン、これでやっとふりだしに戻っただけのこと・・・」
 三人の様子を見ていたポリゴンカメゴンが、ゆっくりと一歩を踏み出した。
「おいカメ。今すぐ、人々にかけた術を解け。おとなしく帰るなら、見逃してやる」
 シュートはそう言って、ガンモードを起動しポリゴンカメゴンに狙いをつけた。ハルとケンタも、それに習う。
「グアッハッハ! そんな武器が、通用すると思うゴンか。撃ってみるゴン」
「いいのかよ」
 そう言ってシュートが放ったビームは、ポリゴンカメゴンの黒い甲羅にはねかえされた。
「な、なにっ!? レーザーガンが、効かない?」
「おれ様の甲羅は、あらゆる攻撃をはね返すゴン。貴様らが、何をやっても無駄なこと。さあ、我がしもべども、こいつらをやってしまうゴン!」
 言うなり、カメの身体が黒っぽくふくらんだ。
 カメの身体の一部が、さっきのように黒い粒に分解して、空中に舞いあがったのだ。
「小岩じゅうの人間どもを我がしもべにしてやるゴン。お前らは、手も足も出せずに死ぬがいいゴン」
 ポリゴンカメゴンが手を振ると、突風が荒れくるい黒い粒の塊が、三つの商店街を吹き抜けていった。

「・・・シュートさん。このカメが思ったよりバカで、助かりましたね」
「まったくだ。一時はどうなるかと思ったが。よし、ケンタ、お前は真正面から狙え。あのカメの、甲羅が崩れている部分だ。おれとハルは左右に分かれる。三か所から、同じ個所を狙ってビーム集中させる。いいな、ハル?」
「オーケー」
 言うなり、シュートとハルは広場の両端にジャンプした。バスに着地すると立ち上がって両手でガンを構え、ケンタに向かって叫んだ。
「今だ。ケンタ、撃て!」
 その時になってようやくポリゴンカメゴンは、自分が攻撃をしているつもりで防御を忘れてしまったこと、つまり、自分の甲羅の一部を黒い粒にして小岩じゅうにバラ撒いてしまったことに気が付いたらしかった。今や、甲羅に覆われていない部分がはっきりと誰の目にも見えた。
「し、しまった。ええい、戻れ! 早く戻るゴ・・・」
「遅いよ」
 ケンタ、シュート、ハルの三人がぴったり合った呼吸で撃ったビームは、正確にカメ型怪人の弱点を射抜いた。
「ぐああああーっ!」
 悲鳴、そして轟音とともにポリゴンカメゴンの身体は爆発し、炎と黒煙をまき散らした。
 煙が薄れてみると、広場じゅうに集まった人たちが皆、きょとんとした顔であたりを見回していた。操られていた時間の記憶を失っているのだ。
 幸い、怪我をしている人は一人もいないようだ。皆、狐につままれたような顔をしながら、家路についた。

  * * *

「つまりこのコブは、シュートに蹴られたってことなんでしょ。ひどいじゃないッスか」
「だからもう謝っただろ。あの時はそれしか思いつかなかったんだ。お前はマジで、おれたちを撃とうとしていたんだぞ」
「ケンタさん、アイデアを出したのは僕ですから、あまりシュートさんを責めないでください。でも良かった、検査の結果、その頭が何ともなくて」
 三人は病院でケンタを診てもらったあと、分室に帰ってきたところである。
 ケンタの頭は湿布薬を固定するために包帯でぐるぐる巻きにされ、他の二人も全身の筋肉痛のためそこらじゅうに湿布薬を張り付けていて、何やら野戦病院のごとき惨状である。
「そもそもお前が、窓を開けっぱなしで寝るからいけないんだろう。あのカメは、全身を今の時代に移動させるだけのエネルギーがまだ溜まっていなかったから、先に自分の身体のごく一部だけをあの黒い粒にして二、三日前からここ、小岩に送り込んでいたんだ。そして、夜出歩いているものや、夜窓を開けているものの鼻孔や耳孔から入り込み、宿主に夢を見せて少しずつ洗脳していたんだ。使える手駒を増やすために」
「夜を狙ったのは、単に黒い粒が目立ちにくいからでしょうね。気が付かれたら終わりですから。僕たちはもう毎晩、訓練の疲れで早寝早起きでしたけど、ケンタさん元気だったから、夜中に星を見ようだなんて・・・」
「窓を開けて寝たって、バカは風邪をひかないはずだ。というか、お前の体力なら平気だろ。なのにお前は今朝、鼻がムズムズする、って言っていた。つまり考えられるのは、鼻孔に何か異物が入っている、ということだ。だからハルは、後ろから頭を蹴れ、と言ったんだ」
「良かったですよ、うまい具合に粒が落ちて。あのままだと、ケンタさん暴れまくりでしたよ」
「だからって、なにもこんな強く蹴ることないじゃないッスか」
「そのことはもう謝っただろうが、・・・」
(以下延々と続く)

 この不毛な言い争いは、マキコの、
「シャーラップ! いいからもうみんな、黙りなさい。焼肉屋に連れていってあげるから」
 この一言であっさり終わった。
 焼肉、と聞いたとたん、空腹が強く意識されて他のことをすべて忘れてしまうあたり、なんだかんだと言いながら、サンフラ和ーの三人が若くて元気で健康であるという証拠ではある。

 とにかく。
 小岩戦隊の二度目の戦いは、こうして幕を閉じた。
 多分に相手のミスに救われた、ラッキーな勝ち星である。
 次の戦いは、そう簡単には行かないぞ?
 頑張れ、小岩戦隊・サンフラ和ー!
 負けるな、小岩戦隊・サンフラ和ー!

 * * *
 
 駅前広場には、このあとしばらく、黒い四角いBB弾のようなものがそこかしこに落ちていたという。
 子供たちが珍しがってそれを拾い、大事にポケットに入れて持ち帰ったが、家につくころにはもう、四角い形は失われてサラサラした砂粒がポケットに残っているだけだったという。その砂粒も、ポケットから出してしばらくすると、蒸発するように自然に消えてなくなってしまったのだという・・・。


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第二話にして早くも、アイデア切れというか、モノリスなどを堂々と使ってしまいました。
パクリとか盗用って思わないで、あくまでもリスペクト、オマージュと考えてもらえると嬉しいです・・・って、苦しい言い訳。
全員が知っている言葉ならばまだよいと思うのですが、「2001年宇宙の旅」という映画じたい、知ってる人は超くわしく知ってるけど、知らない人は全く知らない、というタイプの映画なので。まあ、知らなくても全然かまわないように書いたつもりではあるのですが。
なんかこう、モノリスって、名前も見た目も魅力的だなあ、って改めて感じました、はい。
ストーリーは戦隊ものの定石、「仲間が操られた! さあ大変」のパターンです。このパターンは今後、手を変え品を変え、何度も書くことになりそうな予感(苦笑)

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