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昔のSF。宇宙とかロボットとかそういうSFっぽいもの。
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短篇五芒星短篇五芒星
(2012/07/13)
舞城 王太郎

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舞城王太郎先生の3回目の芥川賞候補作「短篇五芒星」。
受賞の発表を待たずして単行本化されているのを発見し、早速読んでみました~!

そして感想:うん、今度こそ取るね芥川賞・・・!

「短篇五芒星」は、互いに関係のない5つの短編が集まったひとまとまりの作品の名前です。
5つの短編のタイトルは、以下の通り。

「美しい馬の地」
「アユの嫁」
「四点リレー怪談」
「バーベル・ザ・バーバリアン」
「あうだうだう」

このうち、「四点リレー怪談」は息抜きのギャグっぽい話。
何しろ、あのエンジェル・バニーズ(劇団員たち)と本郷タケシタケシ(名探偵)が登場しているのですから・・・!
「ディスコ探偵水曜日」で、陽気な彼らが大好きになった人にとって、このサービス短編はおいしすぎ。会話だけで、十二分に楽しいんです。
1/5の割合で、こういうデザートみたいなのが入ってバランスを取っている所が五芒星なのかな。
その他の短編はどれも舞城先生独特の、目をそらす事を許さないギリギリの問いかけを含んでいて、短くても濃いんですよね。

(この先ネタばれ気味の感想なので気を付けて)
「美しい馬の地」
27歳になって突然、「流産」ということの理不尽さに怒りを感じ、それに取りつかれた男の話。あまりに偏執的なその執着に、恋人は怒って出て行ってしまい、更にクラス会では、流産してしまった、という元・同級生の女の子に、水子供養の話をし続けてその場の空気を台無しにしてしまい、あげくの果てに・・・という話。
自分が周囲の人間関係をどんどん壊していることを知りながらも、衝動に突き動かされるのを止めることができない、こういう、自分の中の暗い大きな力が勝手に動いていく感じがいかにも舞城的。

「アユの嫁」
しばらく会っていなかった実家のお姉さんが、鮎(川魚の、鮎です)の徳丸さんと結婚して、子供が出来てしまって家族みんなで悩む話。
それだけ聞くと、なんだかホンワカした民話みたいな筋書きですが、やってる事は普通の家庭内ドラマとほとんど変わりなく、妹が姉を心配しすぎて怒ってしまい、婚約者に宥めてもらう所とか、家族内の感情のやりとりが、深いというか舞城的に濃い。鮎の徳丸さんという人がまた、一種の神様なんだけどいい人(?)で、姉と意見が合わずに家族も巻き込んだ話し合いで泣きそうな顔をしている所とか、非常に魅力的。会話も普通すぎるんだけれど、やはり鮎は鮎。彼らが話をしているのが山の上の異界に立つ家、という所で、短編全体が異次元のものになってしまっている、不思議感あふれる作品。かなり好き。

「バーベル・ザ・バーバリアン」
力自慢だったが、若くして癌で亡くなった友人(鍋うどん)が死の前に、飲み会に現れて主人公をバーベルのように持ち上げてみせる、と言い出す。

(以下引用)
「まだ筋肉普通にあるし。マラソンとかはさすがに無理だけど瞬発力勝負ならいけるいける」
 からからと笑う鍋うどんは、けれど珍しくしつこくていいじゃんいいじゃんと俺に迫る。病人の痛々しい感じに他の奴らも微妙そうな顔していていいからちゃっちゃとやらせてやれよって空気とマジで見てられないから上手く断れよって空気がまだらになって俺本気でキツい。
(中略)
「任せとけって」と笑う鍋うどんに俺は、
「落とさないでね?」
と可愛らしく頼んでギャグに持っていくしかない・・・。


この、リアルでしかもみんなが、それぞれのやり方で、本気で友人の事を気遣っている気配を、たったこれだけの文章で伝えてしまう舞城先生の凄さ・・・! 
先生の、こういう場面に出てくる友人達の会話って大好きですよ。みんな、ほんとにいい奴なんだもん。自分は果たして今までの人生で、他人に対してこれほどの思いやりを持ったことがあっただろうか、という疑問さえ浮かんできます。
文章がラノベっぽくても軽くても、伝えたい気持ちがはっきりそこにあれば、何の問題もない、という事ですよね。私が審査員だったら、こういう物にこそ賞をあげたい。

その後何十年も、少しずつ自分が、人間性を失っていくように感じる主人公が、結局この時のトラウマから自由になっていなかったんだ、という事に気づく話。ラストの暗さも含めて・・・隙がない!

「あうだうだう」
福井県西暁町。
舞城先生の多くの作品の舞台となったこの町に、「あうだうだう」という悪い箱の神様がいるという。高校生の中村榛枝(なかむらはりえ)は、牧場の動物を殺してその死骸を鎧のように身にまとい、あうだうだうと闘っているという。
主人公の女の子(川上)は、こんな血なまぐさい風習が残るド田舎に引っ越してきてしまい、東京に帰りたいと思うのだが、でもそこで好きな男の子ができてしまう。しかし彼には相手にされず、タチの悪い男と付き合うようになり、そして・・・。
川上があうだうだうに遭遇する場面が怖い。ジブリ映画の、異界から突然現れる古代の神々との出会いのようでもあり、エヴァンゲリアンの使途たちのように何の脈絡もなく出現する感じでもある。

中村榛枝は、あうだうだうの招いた不運から川上を助けるのだがその後に、今日は「あうだうだう退治」があるという。神様だから、ちょっと叩くだけだ、と事も無げに言う榛枝に、川上は儀式を見せてもらえるよう頼む。思いのほか残酷な場面を見てしまい、混乱する川上。でも、榛枝は普通の女の子で、ただ、自分のやらなければならない事をやっているだけ、とあっけらかんとしている。川上は榛枝のことが好きになり、榛枝も友達が出来て嬉しそう・・・。
あうだうだうが何とも不気味なのと、悪い男に引っかかる女の子の転落っぷりのリアルさと、女の子同士の友情の微笑ましさ、まったく毛色の違うものが「西暁町」という、宮沢賢治の「イーハトーブ」みたいな不思議空間で混ざり合っている、舞城先生にしか書きえない作品。

「四人リレー怪談」
キムという男の子が語る怪談話が面白い。怪談の中の人物の恐怖心の描写がやたらリアル。
本郷タケシタケシの、イラスト入りトンデモ推理も楽しいですww

5作品ひっくるめて、いろんな傾向の色見本帳みたいな感じですが、あっと驚くような新しい系列の話はなく、
今までの方向を深めた、という印象。
普通に読んでも面白いですが、若い人や、悩みを抱えた人はいくらでも深読みできそうな気もします。
初期のころの、刃物のようなむき出しの印象はなく、だけど切れば血が出そうな生々しい感触は残っています。
初めて舞城先生の本を読む方にも、読みやすいかも。
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