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イザク

Author:イザク
好きな物・好きな人(順不同)

昔のSF。宇宙とかロボットとかそういうSFっぽいもの。
本一般。映画一般。特撮ヒーロー。仏像。友情モノ。
西尾維新先生。舞城王太郎先生。荒木飛呂彦先生。奥泉光先生。円城塔先生。津原泰水先生。山岸涼子先生。松本大洋先生。三上骨丸先生。白鵬様。食パンちゃん。

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 そんなわけでぼくとリョータは、翌朝はやく家を出て(親には夕べの事で先生に早くくるように言われている、とまた嘘をついて)、小岩戦隊の本部に向かったのだった。
 リョータがゆうべのうちに連絡しておいてくれたおかげで、戦隊の人たちはみなぼくらを待っていた。
 ドアをあけて出迎えてくれたのは、ぼくたちの母親と同じくらいのおばさんだった。
「おはよう、ケンタから話は聞いているわ。あなたがリョータくんね? うん、よく似てる。それで、あなたがサトシくん? 初めまして。私はマキコっていいます」
 ぼくたちがあいさつを返していると、マキコさんの後ろから若い男の人が顔を出した。見間違いようがない、リョータに似ている。この人がレッドのケンタさん。
「リョータ、なに、面白そうなことに首突っ込んだんだって? ゆっくり聞かせろよ、その話」

「ほら邪魔よどいて! 寒いし、中に入ってもらいましょ」
 おばさんはぼくたちを部屋に通して椅子に座らせ、ジュースを出してくれた。
 部屋の中にはあと二人、若い男の人がいた。青いパーカーと黄色いトレーナー。小岩戦隊の、ブルーとイエローだ。ぼくはちょっと興奮した。こんな形で、会えるなんて。
「見たら分かると思うけど、青いのがブルーで名前はシュート、黄色いのがイエローのハル。リョータお前の話、ちょっとひっかかる所があるから、この二人にも聞いてもらうことにした。もう一回、最初から話してくれよ」
 
 リョータが、ちゃんと話すのはこいつのほうが上手だから、と言ってぼくに押し付けてきたので、ぼくは例のノートを取り出して学校の七不思議の話から昨日の夜のできごと、それにぼくたちの考えたことまで、順序だてて話した。
 教頭先生の手や身体が冷たかった、という所では、三人はいっせいに身を乗り出した。最後まで聞くと、ケンタさんが口を開いた。
「どう思うこれ? なんか怪しいッスよね?」
「怪しいな・・・。その、柳の木も怪しい」
「ねえサトシくん。その、最初の七不思議の話は、いつごろからクラスで広まってるのかな」
「七不思議の話はずっと昔からあるんだけど、しょっちゅう入れ変わったりしてて、良くわかんないです・・・」
「教頭先生の話は・・・?」
「先生、何年か前に身体こわして手術して、その時たくさん輸血して、それで宇宙人の血が流れてるとか、そういうのはぼくが入学した時からありましたけど・・・ぼくは本気にしてなかった」
「逆に考えれば、そういう噂のある先生だから、あいつらが入れ替わって子供に気付かれても、あまり騒ぎにならないだろう、って計算してたのかも知れないな」
「計算って? 『あいつら』って、誰だよ兄ちゃん。何か分かってるんなら、教えてよ」
「あのなリョータ、オレら、お前たちの今の話、全部本当だと思ってるんだよ。そばにいるだけで冷たい奴に、オレたちも会ってるんだ」
「ダークグリードって、聞いてるでしょ? 僕らの戦ってる敵の名前。その中に、幹部っぽいのがいて名前は分からないから僕たちは『冷たい騎士』って呼んでるんですよね。君たちの話、その騎士が教頭先生と入れ替わってると考えると、ぴったり当てはまる気がするんです。『柳の木が動く』っていうのも、学校の七不思議にはよくある話だけど、だからこそそれを動かす実験をして誰かに気付かれても、あまり騒ぎにはならないだろう、って計算だと思えるし」
「現に君たちは、そこまで秘密に迫ったのにまだ宇宙人のしわざだと思っていたわけだしな。・・・音楽室にいたもう一人、っていうのがどうも良く分からないが・・・」
「力のある幹部がものに命を与えて怪人を作り出す、っていうのは十分考えられるんですよ。あの騎士がしばらく前から小学校に秘密のエレベータや研究室を作って、そこで教頭先生の姿を借りて夜な夜な青い光線で怪人を作り出す実験をしてたとしたら・・・」
「それを知ったかもしれないリョータたち、マジやばいじゃん!」
「でも夕べ、あっさり二人を家に返してくれたという事は・・・」
「今さらバレても平気、準備は終わった、という事ですかね・・・?」

 朝礼が始まってしまうのでもう学校に向かわなければならない。
 ケンタさんは父兄、ということで事務室で記帳すれば学校の中に入れるが、シュートさんとハルさんは校庭の柵の前で待機することになった。三人の話では、ほぼ確実にぼくたちの学校にダークグリードが現れるだろう、というのだ。今日で一週間目だしな、とも言っていたけれどどういう意味かはよく分からない。
 朝礼では校長先生のお話があったけどぼくは話はまったく耳に入らず、教頭先生の方ばかり見ていた。
 なぜか今朝は、教頭先生は普段通りに見えた。そばに寄って、あの体温を感じてみないと分からないけれど。

 校長先生の話がようやくまとめに入った時、それは起こった。

 ゴゴゴ、と地鳴りがして、ぼくたちは最初、地震かと思った。でも違った。
 校庭の柳の木、ゆうべ風もないのに動いていた木が、ゴゴゴ、と音を立てて全身を揺らしていた。それで、地面まで一緒に揺れていた。
 柳の木はズズッ、っと地面から太い根っこを引き抜いた。一本、そして二本。
 根っこは左右に分かれて、短い足のようになり、柳の木は二本足で立ち上がった。いつの間にか大きな枝も二本、両腕のように左右に突き出していた。そして幹の上の方には邪悪な表情を浮かべた顔が現れていた。額の真ん中に縦長の、三つめの眼があった。
 命を得た柳の木は大きく口を開けて、笑い声を響かせた。
「ぎゃーっはっはっは。ちびっ子諸君、オレ様はヤナギ木之下。柳の木の下のはいろんなものがいるヤナギ。どじょうだの幽霊だの・・・。でも、柳の木の下には死体が埋まっている、って、聞いたことはないヤナギ? 柳の木がこんなに美しいのは、そのせいヤナギ」
 サンフラ和ーの人たちに、前もって柳の木が怪しい、と言われていたおかげで臆病者のぼくにしては珍しく、あんまり驚かないで見ていることが出来た。ヤナギが校庭の、ぼくとは反対側にいるせいも、もちろんある。
 木の下に死体があるのは、桜の木じゃなかったかな? まあ、今気にする事じゃないけど。
「前途洋々な子供たちをこんなに大勢、一網打尽にできるとは、小学校っていい所なのヤナギ」
 ヤナギの枝、というか手がざっと伸びて、生徒たちに巻きつこうとした。みんなは一斉に悲鳴をあげた。
「させるかよっ!」
 大きな声でそう言って、真っ赤な人影がヤナギの前に飛び込んできた。
 サンフラ和ーの、フラワーレッド。父兄として校庭に入って後ろのほうで校長先生の話を聞いていた、リョータのお兄さんのケンタさんの変身した姿だ。
 レッドは手にした剣をおおきく振りかぶって、ヤナギの枝をばさっ、っと切り落とした。
 ぼくは振り返って見た。柵の外で待っていたシュートさんとハルさんが、揃って柵を飛び越える所を。校庭の地面に着地する時には、二人ともブルーとイエローのスーツに変身し終わっていた。
「シュート、ハル! こいつはオレが相手をする、子供たちを頼む!」

 ケンタさんが振り返って叫んだちょうどそのとき、校庭の四隅から黒っぽいものがぞろぞろと湧き出てきた。トカゲみたいな頭をした、怪人たちたっだ。
 キイ、キイと奇声をあげて、ぼくたち生徒のほうにやって来る。ブルーとイエローは素早く反応し、トカゲたちを次々に切り倒していったけど、怪人も生徒も数が多すぎてとても手が回らない。低学年の子供たちは泣き出して、勝手に逃げ出す子もいて収拾がつかなくなった。
「全校生徒! 担任の先生にしたがって、低学年から順に避難しなさい。正門の方向には危険はない、まずこちらに集合! 先生が今手をあげている、ここに集まって!」
 大きな声が響いたので見てみると、教頭先生がマイクを握っていた。違う、やっぱり昨日の先生とは違う、いつもの教頭先生だ。ぼくたち生徒は先生が高く上げている手の方に向かって走った。近くで見ても、やっぱりいつもの先生だ。校長先生はそのそばでオロオロしているだけだった。
 教頭先生はクラス担任の先生たちにあれこれ指示を出し、校庭の隅に取り残された生徒がいないか、目で確認したあと、もう一度マイクに向かって言った。
「赤と青と黄色の諸君、生徒は私たちが避難させる。その、トカゲと柳の木は、諸君にお任せしても、いいのかな?」
(ぼくのまわりで、先生あの人たち、赤と青と黄色、じゃないよ、サンフラ和ーだよ、という声が次々に上がった。)
「助かるッスよ先生! こっちはオレらがやりますから!」
 レッドの返事を聞いて、教頭先生はちょっとだけ驚いた顔をした。多分、何年か前に卒業間際まで問題を起こしていた、鈴木健太の声だと気付いたのだろう。
 サンフラ和ーの三人は圧倒的に数でまさる敵をものともせず、流れるような動きで戦い続けた。ぼくはなんだか感動した。今朝、あの本部で会ったときは、三人とも普通のお兄さんみたいだった。サンフラ和ーのメンバーは特別な人たちじゃない、とリョータから聞いたことがある。だって、オレの兄ちゃんがレッドやってるくらいだからさ、とリョータは笑っていた。
 こんなに上手く戦えるようになるまでに、この人たちはどれだけの修行やトレーニングを積んできたんだろう、そう思うと無性に胸が熱くなって、ぼくは大声を張り上げて声援を送らずにはいられなかった。
「がんばれ、サンフラ和ー!」

 トカゲ怪人がすべて姿を消した時、生徒たちの避難はほとんど終了し、校庭にはぼくたち六年二組の生徒しか残っていなかった。
 柳の木はほとんど枝を落とされ、身動きできなくなっていた。サンフラ和ーの三人は並んで立ち、片手に持った武器(光線銃のようなもの?)の狙いを定めてヤナギにとどめを刺そうとしていた。
 先生方もぼくたちも、ちょっと安心していた。
 そのとき不意に、ぼくたちの立っていた地面が揺れた、いや、ごぼっ、と持ち上がった。
 その場にはぼくを含め六年二組の全員がまだ残っていた。みんな、いっせいに悲鳴をあげた。
 持ち上がって割れた地面の間から、木の根っこがしゅるしゅる伸びて、ぼくたちの身体に巻きついた。挿絵で見た、大蛸に襲われる船乗りたちみたいに、ぼくたちの身体は地面から高々と持ち上げられて振り回された。
「あっ、畜生! 地面の下で根っこを伸ばしてやがった!」
「ぎゃははは、柳の木の下には何があるか分からないヤナギ、最初に警告しておいてやったのになあ?」
 ヤナギがそう言い終わると同時に、ぼくの身体から何かがすうっと抜けていくような感じがした。この、巻きついた根っこに何かを吸い取られてしまったみたいだった。クラスメートたちの悲鳴が消えていた。ぼくは動けない身体の許す限り、身をよじって周囲を見回した。根っこに巻きつかれ、空中に持ち上げられたクラスメートたちはみんなぐったりして手足を垂らしていた。すぐそばのリョータも、目を閉じて青白い顔をしていた。ぼくは初めて、心の底から悲鳴をあげた。
 
 幹だけになった身体から一斉に無数の新しい枝が生えた。この季節なのに青々とした葉がいっぱいついた、一本一本がよくしなる鞭みたいな枝だった。
 ヤナギがまた高笑いをした。
「子供たちの生命力を吸い取ってやったヤナギ。こいつらも、オレ様の下で死体になってそのうち幽霊になるヤナギ・・・!」

「ケンタさん、草系には炎です! ファイヤーバズーカでこいつの本体を焼き尽くしましょう!」
「駄目だハル、もし火が燃え移って子供たちまで燃えてしまったらどうする? この子たちはエネルギーを吸い取られているだけだ、今ならまだ回復する!」
「ぎゃははは、子供の養分をもらって元気いっぱいになったヤナギ、どれ、そっちの子供たちもいただくかな・・・?」
 ヤナギはそう言うと、わさっ、と枝を伸ばした。もう少しで校庭の外に避難していた生徒たちにまで届きそうだ。
「あっ、くそっ! 先生、その子たちをもっと遠くに避難させて! ちくしょう、どうすれば・・・?」

 そのときぼくの耳に、いや、ぼくの頭の中に、声が聞こえた。
<サトシ、ここだよ。ここを狙って>
「なに? 誰?」
<ぼくたちはここにいる。ここを狙えば枝も根っこも、養分を断たれてしおれてしまう。早くここを攻撃して>
 声はヤナギの、額にある三つめの眼から聞こえていた。なぜかは知らないけど、ぼくにははっきりとそれが分かった。

 そうか。植物の根から吸収された水や養分は、道管を通って茎の中に流れるんだっけ。
 クラスメートたちから奪ったエネルギーは今、あの縦に長い眼の下に集まっているんだ。
 
 ぼくは必死で声を振り絞った。
「サンフラ和ー! みんなのエネルギーは額の三つめの眼の下にあるよ、そこを攻撃して!」
「サトシくん? きみ、無事なの?」
「いいから早く! その、縦型の眼だよ!」
 オーケー了解!、とケンタさんが短く言って、うおりゃあああっ!、と雄叫びをあげながら助走をつけて柳の木の幹を駆け上がり、両手に持った剣をみっつめの眼に深々と突き刺した。ほとんど一呼吸の動きだった。
 そのまま、幹に刺さった剣の柄を握ったまま、何秒かケンタさんはそのままでいた。
 やがてはらはらと、その真っ赤な身体の周りに青い柳の葉が散り始めた。ヤナギの枝は急速に葉を落とし、枯れ始めた。
 ぼくたちをぐるぐる巻きにしていた根っこも、見る見る枯れてぐったりと力を失い、ぼくたちの身体はゆっくりと地面に降りていった。
「やったか・・・?」
 ケンタさんが柳の幹から剣を引き抜き、反動で一回転して地面に着地した。引き抜かれたあとから、白く光るものがいくつも、ぱあっと飛び出してきた。光るものは、地面に横たわったクラスメートたちの身体にひとつずつ入っていった。みんなは、目を開き、身体を起こして不思議そうな顔であたりを見回し始めた。
 ぼくの身体のそばにも、白く光るものが飛んできた。でもそれは、ぼくの身体に入る代わりにぼくのまわりを何度かくるくる回ったあと、ぼくの目の前にじっと止まった。ぼくの顔を、見ているみたいだった。それから、空高く飛んで行って、見えなくなってしまった。

「ケンタさん、今回は落雷事故があったことにしましょうよ。校庭の木を燃やしたら、また器物損壊です。小谷さんが始末書を書かされちゃいます」
 そう言って黄色いスーツのハルさんが、重そうな武器をかついでヤナギの前に立った。ヤナギはすっかり葉も枝も落とし、老人みたいになっていた。
「出力範囲を絞って、一本だけ真上から落とせばいいんですよね・・・」
 ハルさんはそういいながら、まっすぐヤナギの木に走り込み、さっきケンタさんがやったみたいに幹を駆け上がって、更に次々に枝を蹴って木の真上に飛び上がった。
 そのまま、その高い位置から、ハルさんの持った武器から稲妻が発射されて柳の木に落ちるのが見えた。
 ヤナギは、断末魔の悲鳴をあげて爆発した。
 ハルさんは爆発を避けて少し離れた場所に着地、しようとしたらしいけれど、うまく着地できずバランスを崩してしりもちをついてしまった。そのまましばらく立ち上がれないでいる。どこか怪我でもしたのだろうか。
 あたりを包んだ黒い煙が晴れると、校庭には黒く焦げて根元まで真っ二つに裂けた柳の木が残っていた。

「やれやれ。今回は、その子が計算外だったな」
 校庭に冷たい風が流れ込んだ。
 いつの間にか、銀色に輝く甲冑のようなものに身を包んだ男が校庭の隅に立っていた。
 一目みただけでわかった、この人は昨日の夜、教頭先生に化けていた人だ。サンフラ和ーの人たちが「冷たい騎士」と呼んでいるという、その人。
 彼はぼくをまっすぐに見て言った。
「きのうのうちに気付くべきだったよ、君は本当は二人だって」
 騎士がぼくと話しているのを見て、サンフラ和ーの三人がさっとぼくの周りを囲んだ。何かあったら、守ってくれるつもりなんだ。
「ぼ、ぼくが二人・・・?」
「そうだ。ゆうべも音楽室にいたのは、君と、そこのリョータくん、あとは、もう一人の君だった」
「それって、幽霊、ってことですか・・・?」
「違うな。私の見たところ、君は生まれたときからずっと、そのもう一人の自分と一緒にすごしていたようだ。でも、今は見当たらないな・・・。君ひとりのようだ」
 冷たい騎士にそこまで説明してもらって、やっと気づいた。タカシだ。生まれてすぐに死んでしまったという、ぼくの双子の兄のタカシ。タカシはずっと、ぼくの中にいたんだ。今までずっと、ぼくを守ってくれていたんだ。音楽室ではほんの少しの気配にも敏感になっていたから、タカシの存在を感じ取ることができたんだ。そして今日は、ぼくの代わりになってあのヤナギの中に入り込んで、やつの弱点をぼくに教えてくれたんだ。

「まあいい。今回はいろいろと、貴重なデータが取れた。サンフラ和ーの諸君がもっと楽しめるように、次回はもう少しマシな怪人を送りつける事にしよう。また会おう、サンフラ和ーの・・・」
 冷たい騎士がそこまで言いかけた時だった。
「待てよ」
 青いスーツのシュートさんがそう言って、冷たい騎士の足元に何か白いものを投げつけた。
「これは・・・何のつもりかな?」
「拾えよ、白い手袋だぜ? まあ、体育準備室にあった軍手だけどな」
「恐れ入ったな、この私に決闘を申し込むつもりかな?」
「意味も知らずにこんなことするわけないだろ。あんた、もうちょっと頭のいいやつだと思ってたけどな」
 冷たい騎士の気配が少し変わった。
 シュートさんは、騎士を怒らせようとしている。でも、何の意味があって?
「安い挑発に乗るほど若くはないんでね。はっきり言って、今の君では私の相手にはならないよ」
「じゃあせめて名を名乗れ。騎士として、最低限の礼儀だろ? おれは小岩戦隊サンフラ和ーの昭和ブルー、田中秀人」
 騎士は甲冑の中でふっと笑った、ように見えた。
「私はモレー118世。・・・久しぶりだなこの名を名乗るのは。普段は、ただ単に『ナイト』と呼ばれている」
「そのまんまだな・・・。まあはっきり言ってその軍手は汚れていて、おれでも拾う気にならないよ。次回はもう少しマシな手袋を投げつける事にするぜ。次こそ拾ってもらう」
「まずその前に、私が送りつける怪人を、諸君が見事に打ち倒してからの話だがね。では、また会おう、サンフラ和ーの諸君」
 ナイト、と名乗った騎士が手を一振りすると、その姿はまぼろしのようにかき消えた。

 校庭に残ったサンフラ和ーの三人は変身を解き、いつもの姿に戻った。
 ケンタさんが振り返って言った。
「サトシ、さっきはありがとう! お前の助けがなかったらオレら、やばかったよ!」
 リョータが走ってきて、ぼくたちの会話に加わった。
「サトシ、お前スゲーな! あいつの弱点、見抜いたんだって?」
「リョータお前さあ、ゆうべ会ったの、あの銀色の甲冑のやつだったんだろ? それ、マジで危機一髪だったんだぜ? あんまオヤジとオフクロに心配かけんなよ」
「やってることは兄ちゃんと同じじゃんか! オレたちの情報、少しは役に立っただろ?」
「その通りですよリョータくんサトシくん。とても助かりました。僕からもお礼を言わせてもらいます」
「でもさサトシ、あいつが言ってた『もう一人』って何のこと? なにか心当たり、ある?」
「うん。あの時、音楽室にいたのが誰か、やっと分かった。でもその話長くなるから、今度ゆっくり話すよ、今じゃなくて」
「それにしてもシュートさん、何であんな事やったんですか?」
「軍手の事か?」
「そうですよ。あいつが拾っちゃったら、どうするつもりだったんですか」
「そしたら決闘するつもりだったよ」
「あいつどう見たって強いッスよ、動きに隙がないし。シュート、剣道もフェンシングも、まだ一か月半しか経験ないじゃん」
「別に勝つつもりはないから」
「じゃあ何で?」
「負けたってとどめを刺されないかぎり死にはしないだろ、博士のスーツを着ていれば。決闘ってどっちかが動けなくなれば勝負がつくんだよ。おれは別に名誉を重んじるつもりはないから、自分から負けました、降参です、っていえばそれで終わりなんだ。まあ、卑怯といえばそれまでだけど。それより、近くで互いに剣を交わして戦えば、相手の癖とか弱点とか、少しずつでも見えてくると思うんだ。おれたち、あいつの事を何一つ知らないだろ。これじゃ勝とうったって無理だよ。あいつ、すぐ消えちゃうしな。だから決闘なら、少なくとも途中で消えたりしないだろうと思ったんだ」
「なるほどねえ・・・。シュートさん、一瞬の間によくそこまで考え付きますね」
「いや、前からあいつを一対一の勝負に持ち込むことはできないかって、考えていたんだ。体育準備室の扉が開いてて軍手が落ちてるのが見えたんで、思いついたんだよ」
「次回は乗ってくるッスかねえ?」
「来ると思うよ。今日だって、だいぶ頭に来てたみたいだった。騎士の恰好をしてるくらいだから、卑怯とか臆病とか言われたくないだろ。ちゃんとした手袋を投げられたら、断らないよきっと」



 その日はそのまま、全校生徒が集団下校する事になった。
 翌日の新聞の地方版に小さく、「小学校に落雷、柳の木が真っ二つに」という記事が載っていた。
 小岩のご当地ヒーロー『サンフラ和ー』を呼んでの大規模な避難訓練の最中に、突然落雷があり、校庭に古くからあった柳の木が黒焦げになり二つに割れてしまった、という。

 そういう事に、なるのか。

 ぼくにはよく分からないけれど、全部本当のことを言ったら、保護者とか教育委員会とか区役所とか、いろんな人が好き勝手に文句を言って卒業式どころではなくなってしまうのかもしれない。何があったのかはうすうす分かっていても、うやむやにしてしまうほうが結局平和なのかもしれない。
 でもこれじゃあ、あんなに必死で戦っていたサンフラ和ーの三人がむくわれない。
 
 がんばれ、小岩戦隊・サンフラ和ー!

 ぼくはそっと口に出してみる。
 きのう学校にいた生徒たちは、みんなぼくと同じ思いをもっているはずだ。


 それから何日かたったある日、登校すると担任の先生が、サトシちょっと来てくれないか、と言う。
 先生の後について職員室に行くと、コピーの束を渡された。
「サトシ、実はきみにもらった卒業文集の原稿なんだけど、昨日編集の作業をしていて、間違えて二か所に載せてしまったらしいんだ。まだ校正の最中だから、どっちか片方を削ろうと思っているんだけど、これ、きみの書いた作文なのかな? 字も同じだし書いてあることもほとんど同じなんだけど、こっちの作文は名前が違うんだよ・・・」
 先生が指さした部分の作文を、読んでみる。確かに、字はぼくの字だった。


「小学校の思い出」
  六年二組 山田隆志

 ぼくの一番の思い出は、夏休みに良太くんと三人で鉄塔を見に旅に出たことです。すごく大変だったけど、今思い出すとあんなに楽しい時間を過ごしたのは初めてだったように思います。
 良太くんと三人で遊んだことは他にもいっぱいありますが、どれもいい思い出です。
 三人で音楽室に忍び込んだときの事も、忘れられません。
 教頭先生にも親にも叱られてしまいましたが、でもすごくスリルがあって、自分が危険なことにも立ち向かえるんだっていう自信にもなりました。今思うとやっぱりそれも、小学校の大事な思い出の一つです。
 こんなに楽しい思い出をいっぱいもらった学校を去るのはさびしいことですが、でもいつまでも子供ではいられません。
 さようなら、ありがとう。ぼくの学校、ぼくの友達、ぼくの兄弟。
 ぼくは、卒業します。 


「この作文と、前のページの作文、ほとんど同じなんだけど、前のページでは名前が『山田悟志』になってるんだよ。あと、『三人で』ってところが全部『二人で』になってるのと、最後の『ぼくの兄弟』っていうところが、無いんだ。違っているのは、そこだけなんだけど・・・。でもきみは確か、兄弟はいなかったはずだよね?」
 先生の声が遠くに聞こえたけれど、ぼくの耳には入っていなかった。
 ぼくの眼には涙があふれていた。これは、タカシの書いた作文だ。いつのまにか一人増えているのは、卒業アルバムじゃなくて卒業文集だったんだ。
 タカシはずっと、ぼくと一緒に笑ったり泣いたりしながら学校生活を送っていたんだ。でもあのとき、白い光になったタカシはぼくの中に戻ってこなかった。タカシは、卒業することに決めたんだ。どこか、ぼくの知らない場所に旅立っていったんだ。
「ねえ、こっちの、名前が違っているほうは、削ってもいいよね?」
 先生はそう言ってぼくの顔を覗き込み、初めて、ぼくが泣いているのに気付いたようだった。ぼくはあわてて涙を振り払った。
「はい、そっちは削ってください。文集に残すべきじゃあ、ないと思います。・・・先生、代わりに、このコピーの試し刷り、もらっていってもいいですか?」
「ああ、いいよ。二、三部は作ってあるはずだから」
 ぼくはコピーの束を胸に抱きしめてクラスに戻った。
 この作文も、ぼくの大切な宝物になるだろう。リョータにだけ、こっそり読ませよう。リョータにだけは、タカシのことを全部話してあった。

 
 卒業式まで、あと何日もない。
 ぼくは退屈な授業中に、クラスの窓から、青く晴れた空を背景にそそり立つ、鉄塔小松川線108号を見ていた。大きくてカッコいい、ぼくの大好きな鉄塔だ。
 卒業したら、自転車で今度はこの小松川線の始まりから終わりまでを旅してみよう、と決めていた。
 今度は、ぼく一人で行くつもりだ。



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・・・こんな感じで、ちょっとリリカル? な第六話でした。
書き終わったらけっこう長くなってしまったので、前後編に分けてみました。
これって、二週間分にカウントしていいよね? ね?
「少年視点」というのもわりと戦隊ものでは定番なので、いつかは少年の一人称でやってみよう、と思っていたのですが、その「いつか」がこんなに早く来るとは(T.T)
TVの戦隊シリーズがそうであるように、なるべくいろんなテイストで書いてみたい、とは思ってるんですよ。
ただ計算違いだったのは、自分の中にテイストの引き出しがあんまり無かったこと・・・(T.T)
あと、小学生の一人称にしては言葉づかいが大人っぽすぎる、とは自分でも思ってるんですが、これを完全に小学生の言葉だけで書こうとすると、難易度がまた数十倍、跳ね上がってしまうので、まあ読書の好きな小学生だったんだな、って事で見逃してください(T.T)

小学生男子の一人称、って決めたら、そのあとは、「じゃあ鉄塔だな」とか「学校の七不思議だな」とか、連想ゲームみたいにして全体の方向が決まっていきます。それと、小岩戦隊の世界では今三月なので、「じゃあ卒業が近いから、それっぽく」みたいな事も考えますね。
ケンタの弟のリョータというのも、そのうち使ってやろう、と思っていたのですがまさかこんなに早く使ってしまうとは(T.T)
しかもリョータ君は今回はあまり性格付けがされてなくて、ちょっと狂言回しみたいな使い方だったので、しばらく経ったらまた使ってみたいです。鈴木家は、小岩によくいる若くて善良で地元大好きでちょっぴりヤンキーな家族のイメージです。

ところで、今さらこんな事をいうのも何ですが、このシリーズ、読んでる人っているんですか?(苦笑)
いえ最初のうちは「オレはオレの趣味でやってるんだ!」みたいに、威勢が良かったんですが、最近ちょっと弱気になってきまして、「楽しんでくれてる人、待っててくれる人って、いるのかなア・・・」みたいになってますんで、しおれた花には水をやってください。
拍手とか感想とかいただけると喜びます。
「この人が好き」とか「この話には笑った」とかいうのも有難いです。
「こういう話読みたいな」というリクエストも大歓迎です。何しろ、まだ空白の週が40週以上あるんですから・・・(T.T)
ただし、「タイアシュの話を書いて」というのは不可(笑)

おっとっと、書き忘れるところだった!
「下小岩第二小学校」は実在しませんが「下小岩小学校」ならあります。
フラワーロードをちょっと内側に入ったあたりです。門の脇に栃の若の小さい石像があります。
私見ですが、ここの卒業生は生粋の小岩っ子と言っていいのでは・・・?
位置関係から言って、ここの屋上からなら鉄塔小松川線108号が見えると思います。
もちろん、小説とは一切関係ありません!

鉄塔の名前は、道路や公園と同じく公共の建造物とみなし、実在のものを使わせてもらっています。
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