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イザク

Author:イザク
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昔のSF。宇宙とかロボットとかそういうSFっぽいもの。
本一般。映画一般。特撮ヒーロー。仏像。友情モノ。
西尾維新先生。舞城王太郎先生。荒木飛呂彦先生。奥泉光先生。円城塔先生。津原泰水先生。山岸涼子先生。松本大洋先生。三上骨丸先生。白鵬様。食パンちゃん。

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今年を振り返ると面白い本に巡り合えず、非常に物足りないです。
去年が豊作だっただけに、尚更です。
(去年はこの時期、円状塔「屍者の帝国」舞城王太郎「ジョージ・ジョースター」
奥泉光「黄色い水着の謎」でどれが一番か悩んでいた)

図書館に行っても読みたい本が見つからず、前に読んで面白かった本をまた借りてきちゃいました。
四とそれ以上の国四とそれ以上の国
(2008/11)
いしい しんじ

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いしいしんじといえば、宮沢賢治の影響を受けた女性むけメルヘン、といった印象が強く、「森ガールご用達」みたいな言い方をされている、国籍不明で甘めのファンタジイばかり書いていました。
私も2、3冊読みましたがなんかメルヘンチックで好きではなかったです。
ところが、2007年の「みずうみ」という長編は、明らかにそれまでとは違う、静謐な世界観の、現実が異界化するようなファンタジイで、「あれ? 雰囲気が変わったな」と思っていたのですが翌2008年発行のこの本には魂消ました。

四国を舞台にした5篇の短編が収められていますが、冒頭の「塩」をのぞく「峠」「道」「渦」「藍」の四編は、「みずうみ」に近い、現実の四国と透明感のあるもう一つの静謐な四国が重なり合うような世界観で、主人公たちは旅を続ける巡礼であり、その旅はよじれた空間だけでなく、時間も軽々と越え、過去と現在を行き来します。
「峠」は「銀河鉄道の夜」を思わせる鉄道の旅、「道」は見えない道を巡礼しつづける男と、やはり現実ではない世界に棲んでいる女とのはかない関係の物語、「渦」は鳴門海峡の渦が好きで「回転」という事に憑りつかれた男の話、「藍」は、四国(徳島)の特産物、藍の染料を作る職人と、その職人の作業所を逃げ出した、「年の頃は16、7」の藍の少女(?)の物語。
これらの中では「藍」の、藍職人の過酷な仕事ぶりがまず興味深く(藍ってそうやって作るんですね!)、逃げた藍を追うことになった男に、親方が「女を知るため」に持たせてくれるのが谷崎純一郎の「細雪」の文庫本というのも面白いです。
(他の短編にも、正岡子規や夏目漱石、ラフィカディオ・ハーンなどの文豪のエピソードが効果的に使われている)
染料になる直前の藍を少女に擬人化、という発想も、サラッと書いてあるのでうっかりスルーしてしまいそうになりますが、「突拍子もねえ!!!」って3回くらい大声で叫びたいほど、独創的です。ただ、文中には「藍の作業場では昔から藍が逃げ出す、という事があった」というような事がしれっと書いてあったりします。
どこまでが創作でどこまでが現実の四国なのか、読者には分からず、その境界が見えなくなる感じが心地よく、読後、「幻想の四国」とでも言うべき、繊細で光に透ける、見えたり見えなかったりする四国が眼前に立ち現れてきます。別の言い方をすると、四国にお遍路さんに行きたくなります。自分の目で四国を見、自分だけの四国を感じたくなるのです。

全体に、そうしたゆっくりと時間の流れるような本なのですが、巻頭の「塩」だけは異色で、文体からして力強く、透明感もはかなさも無いかわりに、日本の田舎の土着のパワーが溢れていて、私が大好きな短編です。冒頭部分をちょっと引用してみます。

 俺の盛り上がって動く土の筋をはじめて見たのは、七歳半の夏だった。それは夏みかんの木の下の地面だった。(中略)
 それはもぐらではなかった。盛り上がった土の動きは、じりじりとのろいかと思うと、やにわに速まったりし、土の盛り上がりの高さはときに、七歳半の俺の、膝のあたりまで達した。俺は胸ポケットに菊をさしていた。俺は盛り上がる土の筋を一心に追いかけた。これは俺の筋だということがわかったのだ。

意味はわからないけれど、妙にダイナミックでどことなく性的でかすかに詩情が漂っている、この強い調子で、高松のとある十二人兄弟が、親戚の家に引き取られる顛末、知恵おくれの姉が人形浄瑠璃に魂を奪われたり、屋根の上に特産品の塩を髙く盛り上げる「塩祭り」の様子が描写されます。シュールでありながら非常に地方色が濃く出ています。意味は分からなくても勢いで読みすすめてしまい、最後まで読んでも何の説明もなくやはり意味が分からないけれどそれはそれで良く、読んでる最中も滅法面白いので満足、という、私の好きなタイプのファンタジーです。

この「四とそれ以上の国」を数年前に読んで、「いしいしんじ、この路線で書き続けてくれれば大好きになれるのに」と思いましたがその後、このタイプの本は出ていないようでちょっと残念です。

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